アングラ演劇の始祖、唐十郎さんの情熱 境内の紅テントから社会を動かそうと…
4日に死去した劇作家の唐十郎さんが主宰した劇団唐組。その舞台から客席に飛んできた生肉に、「なんだこれは」と衝撃を受けたのを覚えている。平成30年、東京・新宿の花園神社の紅テント内で上演された「吸血姫」。唐十郎さんは6年前からの療養のため舞台に姿はなかったが、育て上げた唐組が人でいっぱいのテントの中に、戯曲のエネルギーを放出していた。 アングラ演劇の旗手、劇作家の唐十郎さん死去 昭和40年代前半、この一帯は一時期、反体制文化の象徴のようになったという。唐さん率いる「状況劇場」が境内に紅テントを張って芝居を上演し、若者たちを熱くしていたからだ。 テントの「紅」にはどんな意味があったのか。 「紅は祖母の腰巻きの色。隅田川に飛び込んだら、腰巻きにたくさんのシラウオが入った、と祖母から寝物語で聞きながら、さぞかし美しい紅だったんだなあと思ってね」。インタビューで唐さんはそう由来を明かしている。ライバルとされた劇作家の寺山修司さんは、紅テントを「都市の中の子宮」と評した。子宮に例えられた狭い空間で、唐さんは書き下ろした物語を上演し続けた。 アングラ演劇の始祖とされる唐さんの作品は一見、荒唐無稽だ。「最初見たとき、訳分かんないけど、すげえなあと思った。起きながら見る悪夢だよ」とは、状況劇場で役者として活躍した俳優・演出家の金守珍さんの言葉。一つの事柄にさまざまなイメージを重ねて描かれているからこそ、初見では理解が難しい。 たとえば昭和末期の戯曲で、薄いビニール膜を隔てないと気持ちを伝えられない腹話術師が登場する「ビニールの城」。当時難解とされた物語には、後年の新型コロナウイルス禍に通じる描写がある。唐組の座長代行の久保井研さんは令和3年の上演にあたり、「黙示録のようだ。悪魔的な予言の力がある」と語った。 状況劇場に所属していた俳優の佐野史郎さんは「唐さんの演劇には、一貫して自身の体験に根ざした戦後史への大きな問いかけがあり、小さな劇場から現実世界を動かすようなうねりを秘めていた」とコメントした。 新宿・花園神社の紅テントでは折しも5日から、唐組によって代表作「泥人魚」が開幕した。都市の子宮から社会を動かそうとした情熱は、受け継がれていく。(三宅令)