連載:アナログ時代のクルマたち|Vol.29 アルファロメオTZ2
ここに紹介するTZの前身SZ誕生の背景に、SVZ(スプリント・ヴェローチェ・ザガート)の存在があったことは連載19のSZの時にお話をした。そしてSZはジュリエッタのコンポーネンツをベースとしたモデルであった。その後継モデルとなったTZのプロジェクトはすんなり簡単なものでは無かったようで、そのスタートは1958年頃まで遡る。 【画像】GTカテゴリーでの勝利を目指して作られた、グラスファイバー製のボディを持つアルファロメオTZ2(写真11点) マルチェロ・ミネルビ著のアルファロメオ-ザガートSZ TZによれば、TZの遠い祖先は1958年のトリノショーにデビューしたアバルト アルファロメオ1000クーペであるという。(因みにこの車は今、ステランティスのヘリテージに保管されている)そもそもこのプロジェクトに時間がかかった背景には、その当時アルファロメオ社内において量産の新車開発が忙しく、正直なところレーシングカーに手が回らなかったというのが実情のようである。プロジェクトVと呼ばれたアルファ初のFWDモデル、ティーポ103の開発に勢力が注がれていたかららしい。とはいえ、このティーポ103は結局日の目を見ず、103を生産する予定だった工場ではジュリアが作られることになった。 一方、カルロ・アバルトがアルファロメオに近づき、1956年ごろにジュリエッタ用の1.3リッターエンジンを1リッターに縮小したエンジンを搭載したモデルを開発。そのシャシーをアルファに納入するのだが、剛性不足からこれをチューブレールで補強して弱いパーツも補強するなどした強化を行った。アルファではこの強化したシャシーに1.3リッターエンジンを搭載することを目論んでいた。その後アルファ社内のオラツィオ・サッタとジゥゼッペ・ブッソは本格的なGTの開発を進めることとなり、チューブラーシャシーに4輪独立懸架のサスペンションを持つシャシーを完成させる。ボディワークはザガートに任され、コードネーム105.11の開発がスタートした。1959年のことであった。チョイスされたエンジンとギアボックスは、後に誕生するジュリアのものが使われていた。こうして1961年1月最終形のシャシーがザガートに送られ2台のプロトタイプの制作が始まったのだが、ザガートは当時TZ1の生産に忙しく、最初のプロトが完成したのはその年の半ばを過ぎた頃だった。驚いたことに最初にザガートで製作されたボディは、タルガトップを持つロードスターであり、ヘッドライトの上にフィアット600から転用されたディレクションインジケーターが付けられていたものだった。そして最初のクーペは1962年のトリノショーに出品されるが、ヘッドライトは角型で、まだSZのフロントマスクが採用され、リアエンドの形状も後の量産TZ1とは異なっていた。 TZ1が完成したのは1963年のこと。1967年まで合計117台が生産されることになる。ブッソの考えではTZ1はアマチュアドライバーがレースやラリーをエンジョイできるポテンシャルを持ちながら、純粋なレーシングカーではなくロードユースも可能にしたGTを目指していた。 これに対し、1964年にデビューしたTZ2は純粋なレーシングカーとして計画されたもので、GTカテゴリーの1600ccクラスでの勝利を目指して作られたモデルである。アルミボディだったTZ1とは異なりTZ2はグラスファイバー製のボディを持ち、ドライサンプの1.6リッターエンジンを搭載していた。 当時50台の生産を義務付けられていたGTクラスであったが、結局TZ2は12台しか作られず、プロトタイプとしての参加に終わり、GTクラスにエントリーすることはなかった。それでもレースでの成績は優秀で1.6リッタークラスでは常にクラスウィンを獲得するほどであったが、GTカーのホモロゲートが受けられなかったことで、本格的なプロトタイプのレースは後に登場するティーポ33に受け継がれ、TZ2がワークス活動をしたのは18カ月であった。余談ながら、レース用エンジンのチューニングは全てコンレロに任されていたようだ。 前述したように12台が生産されたという記録が残っているのだが、実はTZ1を転用してTZ2に作り変えたモデルが現在は存在し、現在の生息数は定かではない。また、TZ2のシャシーを使いながらTZ2として誕生しなかったモデルが2台ある。そのうちの1台が、ベルトーネ時代のジゥジアーロが美しいボディを架装したカングーロである。シャシーナンバーは101。そしてもう一台はピニンファリーナ・ジュリアスポーツとして生を受けたシャシーナンバー114である。そしてシャシーナンバー111はレーシングカーとして生を受けたはずのTZ2をロードユースに転用したモデルとして生産された。 ロッソビアンコ博物館が保有していたモデルはシャシーナンバー117。元々はアウトデルタが保有していて1966年のタルガフローリオに出場したモデルと言われている。因みに117はTZシリーズ最後のシャシーナンバーである。 文:中村孝仁 写真:T. Etoh
中村 孝仁 (ナカムラタカヒト)