病気予防に統計学介護システム開発 愛知の老人ホーム
蓄積データの分析で、通常よりも血圧の値に変化が出ているから、注意を呼びかけよう──。血圧や体温などのバイタル値や水分摂取量などの蓄積データを、統計学に基づいて表計算ソフトで分析するシステムを、愛知県知立市の介護付有料老人ホーム・ワンズヴィラ池鯉鮒(ちりゅう)が独自に開発し、注目を集めている。分析データは、厚生労働省が公開する健康情報などに照らし合わせて脳卒中などの発症予防につなげるなど、利用者の病気予防や適切な介護に生かしている。
「統計学ノウハウない」と断られ自ら開発決意
システムは、同所を運営する深谷メディカルビルの社長、深谷憲夫さん(68)が開発した。もともと工作機械メーカーの技術者として35年間働き、部品設計などに従事。「製造部品の不良品率を下げるなど、品質管理を考える場合、基礎として統計学を使っていた」という。 父親の後を継いで介護の世界に入ったのは今から10年ほど前。「介護現場は手書きが主流で、データ分析はもちろん、パソコン利用も一般的ではなかった」と当時を振り返る。 体調不良の利用者が医師に見てもらう際も、介助者が「最近血圧が高い状態が続いている」などと、大ざっぱな報告をすることにも違和感を覚えた。「利用者のデータを蓄積すれば、医師に見せることもできるし、データ分析すれば、介護する側も何らかの異変に気づけるはず」と考えた。 システムのアイデアは、介護分野のソフトウエア会社に数社伝えて開発を打診。しかし「統計学のノウハウがない」などの理由ですべて断られ、自ら開発を決意した。表計算ソフトで数式を設定し、知り合いの医師から意見を聞くなどして、完成までに6年かけた。
日々のバイタル値や排せつの量など蓄積
2015年6月から運用を始めたシステムには、利用者30人の日々のバイタル値や排せつの量などが蓄積されており、データは表やグラフ化して、見やすくすることができる。 例えばある利用者の水分摂取量が下がった場合、日々の記録をグラフ化すると、一時的な減少か、1週間前から減少傾向にあるのかなどが一目で把握できる。 さらに、血圧などバイタル値や健康情報と照らし合わせることで、利用者やその家族に水分摂取を促したり、他の原因を探ったりすることができる。診察を受ける場合も蓄積データを提示することで、医師の診断をサポートできる。
現場での手間も職員教育につながる
システムを生かすには毎日、利用者のバイタル値や、家族と会ったなどの行動を記録することが必須。パソコンを使った入力作業も欠かせないことから、現場での手間はかかる。 それに関して深谷さんは「日常を知って異常を知ることができるシステムだから、職員が利用者のデータを見て、考えて行動するようになるなど、職員教育につながる。データから利用者の事が分かるので、コミュニケーションがとれるなど職員が働きやすい環境作りにもなる」と、システムの意義を語った。 (斉藤理/MOTIVA)