暴言&ツバ吐きまで…『かまいたち』の炎上発言だけじゃない…薬剤師が語る”カスハラ”驚きの実態
お笑いコンビ『かまいたち』の山内健司(43)と濱家隆一(40)、『アジアン』の馬場園梓(43)が番組内で薬剤師を軽視する発言をして大炎上した。 【画像】ま、マジですが……! 処方箋が入れ替わるリスキーなトラブル 薬局に行った際、薬剤師にも症状を聞かれたのが「うざかった」と言う山内に対し、馬場園が「わかる、そいつ(薬剤師)に言ったって薬変わらへんから」と返すと、濱家も「薬剤師さんも医療に携わってるから、“医者憧れ”みたいなのがある」と応酬した。薬剤師があらためて患者に症状を聞くのは“憧れている医者のマネごとがしたいから”だとコキおろしたのである。 日本の医療において薬剤師は重要な役割を担っており、薬剤師がいなければ医療現場に大きな混乱をきたす。それは医療人の間では常識だが、事程左様に世間では認識されていないのである。『かまいたち』の二人や馬場園のように、薬剤師を下に見る患者が少なくなく、カスハラーーいわゆるカスタマーハラスメントに悩む薬剤師をこれまでたくさん見てきた。現役薬剤師の悲痛な声を紹介しよう。 ◆「医者になったつもりか!?」 薬剤師歴15年、都内薬局で働く男性薬剤師Aさんは「山内のように薬剤師からの質問をうざいと思う人は少なくない」と話す。 「私たちが症状を確認するのは、薬を安全に飲んでいただくため。併用している薬や食事の習慣などは重要な情報なのです。ところが、薬剤師の話を遮って『いいから早く薬を渡して!』という患者さんは少なくありません」 薬剤師を罵倒する“モンスター患者”に遭遇したことは一度や二度ではない。 「『お前は医者になったつもりか!? 薬剤師の分際で思いあがるな!』と薬局の外まで響き渡るような大声で怒鳴られたことがあります。『今日はどうされましたか?』と聞いただけで、いきなり怒鳴り始めて……冷静に『安全にお薬を飲んでいただくためにお聞きしています』と説明するとますます激高して『お前が聞いて何がわかる!?』と」(Aさん) 質問するのが薬剤師の仕事であるということを理解していない患者が多いのだ。患者が薬局を利用すると料金に『服薬管理指導料』が加算される。薬剤師は患者の情報を聞き取り、患者が安全に薬を使用できるよう説明し、患者の薬の管理を行い、記録に残さねばならないのだ。薬剤管理指導料は特別なケースを除き、患者は拒否できない。調剤薬局では必ず発生する料金となる。 「患者さんに詳しく症状を聞いたことによって、間違った薬が処方されていたことが判明。医師に連絡して、薬が変更されるケースは珍しくはありません。たとえば、医師には普段から服用している薬のことを伝えてなくて、併用禁忌といって絶対に一緒に飲んではいけない薬が処方されていたというケース。咳止めや抗アレルギー薬には緑内障や前立腺肥大の患者が使用できないものがあります。熱性痙攣を起こしたことがある小児にも、一部の抗アレルギー薬は出せません。痙攣が誘発されることがあるからです。 ところが、患者さんが医師に既往歴や服用薬について説明していないと、処方してはいけない薬が処方されることがある。だから、薬剤師がダブルチェックしているわけです。最近はPCで処方箋を作成するので、他の患者さんと処方箋が入れ替わるミスも起きています。手書きの処方箋と比べると見分けがつかず、混入しやすいのです。単純な薬の選択ミスも起きています。似た名前の薬が多いからです。薬剤師が患者の既往歴や服用薬をチェックしたことで、医療過誤を未然に防げた……というエピソードはどこの薬局にでもあると思います」(Aさん) 薬剤師歴8年の女性薬剤師Bさんは現在、地方の薬局に勤務しているが、大学卒業後の数年、都内の薬局に勤務していた時にカスハラにあったという。 「あるとき、中年女性の患者さんに薬の説明をしても一切返事がなく、嫌な予感がしていたんです。すると……薬情(薬の説明書)を指差していた手にヌルッとした感覚がありました。ツバを吐かれていたんです。その患者さんは過去にも他の薬剤師に暴言を吐いていた要注意人物だったので、さすがに薬局長が看過できないと動いてくれました。主治医に連絡して経緯を説明し、今後、その患者さんの処方箋は受け付けないことになった。いわゆる出禁になったんですが、いまだにあのヌルッとした感触が手に残っていて……トラウマです」 薬剤師法第21条に「調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあった場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない」という条文があるが、患者のツバ吐き行為は暴行罪にあたり、調剤を拒否することができる。ただ、暴言の場合は調剤拒否をできないことが多いという。 昨今、社会問題化している薬不足もクレームの対象となっているという。 「製薬メーカーの不正や被災などを理由に薬の供給量が低下してます。メーカーの出荷調整により、卸業者に薬自体が入らないため、薬局にも入ってきません。全国のどの薬局も同じ状況です。薬不足と薬剤師は一切関係ないのです。なのに『薬が足りないのは薬局の努力不足だろ!』『何とか用意しろ!』と恫喝される。入荷しない薬が処方された時は、医師に相談して同じような効果がある薬に変更してもらうのですが、それも気に食わない患者さんがいる。ジェネリックがなくて先発薬がある場合だと『先発薬とジェネリックの差額を払え!』と詰め寄られることもあります。薬不足はまだまだ続きます。患者さんに頭を下げ続けなければならないと思うと憂鬱です」(別の男性薬剤師Cさん) 超高齢社会へと突き進む日本にとって、老人宅や老人施設を訪問して服薬指導を行ったり、一人ひとりの要望に応じて薬を一包化(パック)する薬剤師の仕事はますます重要性を増している。公共の電波を使って薬剤師を侮辱した『かまいたち』と馬場園も、薬剤師抜きでは生きていけなくなるのだが……。 取材・文:吉澤恵理 薬剤師/医療ジャーナリスト
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