中止の新線計画復活?英「政権交代」で鉄道大改革 国鉄民営化以来続いた運営方法も大幅見直し
■「緊急措置」の有効性が改革を後押し コロナ禍において、イギリスでは数十万人に及ぶ関連死者を出すなど、国として大きな痛手を負った。 だが、鉄道界についてはERMAsの方法を導入できたことで、頭痛の種だったフランチャイズ制度からの撤退に向けて大きな示唆があった。運賃収入とインフラを一元的に管理したうえで鉄道サービス全体を統括するというモデルの有効性がわかったからだ。この緊急体制が良好に推移したことが、大規模な鉄道改革を推し進める決定的な根拠となった。
大規模な改革の主軸となるのが「グレート・ブリティッシュ・レイルウェイズ(GBR)」の設立だ。日本語に直訳すると「偉大な英国の鉄道」という意味になり、政府の力の入れかたがわかる。 GBRは運賃収入やインフラの管理を一元化する一方で、運行は既存のTOCに委託する「コンセッションモデル」を採用し、TOCに対し運行のための適切な分配金を支払う。なお、GBRのスキームにおいては、従来のTOCが旅客サービスオペレーター(PSO)と呼ばれることになる。
そのうえで、PSOは運行やサービスに対する評価に基づきインセンティブを受給する。サービス品質の高いPSOがより高い報酬を得られる仕組みで、インセンティブという「エサ」を目の前にぶら下げられたPSOの間で競争が活発化し、サービスの向上も期待される。 従来の方式では、複数会社間の競争が生じるタイミングはフランチャイズに応札する際に限られていたが、GBR移管後は、契約期間中もPSOのサービスの質についての評価が行われることで競争環境が維持されよう。
■「GBR」設立はいつになる? いきなりGBRに移行するのは拙速だと見た労働党政権は9月、GBRの正式設立前の準備段階として、改革に先立ち「シャドウGBR」という組織を立ち上げた。 現在インフラを管理しているネットワーク・レールのCEO、運輸省の鉄道サービス総局長、そしてフランチャイズが立ち行かなくなった運営区間の受け皿となる持株会社DfT OLRのCEOが協力し、既存鉄道の運行改善やシステム全体の調整推進を目指す。シャドウGBRは、GBRが目指す統一的な運営体制の実現に向けて、既存のTOCとの連携を強化し、サービスの一貫性と効率性を高めるための橋渡し役を果たすことになる。
鉄道改革の原動力として組織化されるGBRの正式設立時期はまだ決まっていない。早ければ2025年中にも実現という見方もあるが、具体的な改革に向けたスケジュールはこれからの法整備や手続きの進展次第といったところだろう。 改革の成果は果たして利用客や貨物の荷主にとって抜本的なサービス品質の向上という形で現れるだろうか。鉄道改革が、イギリス鉄道界のみならず、新たな時代の経済発展に向けた大きなターニングポイントとなることを期待したい。
さかい もとみ :在英ジャーナリスト