中止の新線計画復活?英「政権交代」で鉄道大改革 国鉄民営化以来続いた運営方法も大幅見直し
そして、政権交代を機に、労働党は現在のイギリス鉄道の仕組みである「上下分離・フランチャイズ方式」を一から見直し、次なるステップに進むという大きな決断を下した。 ■コロナ禍で露呈した鉄道運営の脆弱性 イギリスの鉄道は1994年、国鉄(British Rail)の民営化のプロセスの一環として上下分離化され、その後1996~1997年に運行が民間に移行した。「下」に当たるインフラの管理は運輸省傘下のネットワーク・レール(Network Rail)が担い、「上」に当たる列車運行は入札を通じてフランチャイズ(運行権)を得た民間の鉄道運行事業者(TOC)が担っている。
民営化は鉄道の活性化を招き、コロナ禍前には全国の鉄道利用者数が第2次世界大戦後最多にまで増えた。一方で、こうした二重構造が存在することで、インフラ管理側と運行を担うTOCとの連携不足、サービスの一貫性の欠如、さらには需要があるのにインフラ側の工事の都合でやたらに運休するといった利用者の視点を欠いた運営など、さまざまな問題を引き起こし、鉄道サービス全体の質を低下させる要因ともなっていた。 政権交代によって一気に鉄道改革が加速しているわけだが、それ以外にも改革に着手しやすくなった大きな理由がある。それは、コロナ禍という未曾有の事態によって、これまでの仕組みの脆弱性が一気に露呈したためだ。
フランチャイズ制度では、TOCは運賃収入を得て、そこから運行費用をまかなうほか、車両のリース代や線路・駅の使用料、運輸省に収める「プレミアム」などを支払い、残った分が儲けとなる。運賃収入の増減によるリスクはTOCが負っているが、コロナ禍によって乗客数は一気にそれまでの数%台まで減少。運賃収入も激減してTOCの運営が行き詰まり、フランチャイズモデルは持続不可能となった。 そこで当時の保守党政権は「緊急回復契約(ERMAs)」を導入した。これは政府がいったん全ての運賃収入を受け取り、TOCに対して運行に必要なコストを含む適切な分配金を支払う方式だ。この緊急措置によってTOC各社は「経営のリスク」からひとまず解放された。各社は受け持つ路線での運行を維持しつつ、フランチャイズ制度は停止となった。