<近江式エンジョイベースボール>24センバツ/3 励まし背中押す「言葉」 仲間へ気持ち込めた手紙 /滋賀
センバツ出場への最初の関門となる昨秋の県大会を前にチームの和が乱れかけたものの、立て直しに向けた話し合いを尽くし、思いを一つにした近江の選手たちは大会に向けて歩みを進めていった。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち エースの西山恒誠(2年)は、愛工大名電(愛知)など強豪校との練習試合で打者との駆け引きを学び、中学校からの同級生でバッテリーを組む高橋直希(2年)らと理想のフォームを研究していった。また体を柔らかくするためのストレッチなど自主練習を重ね、着実に力を付けていった。野手陣も「つなぐ野球」を目指し、全体練習後もそれぞれがバットを振り込んだ。 近江は県大会を順調に勝ち上がり、近畿大会出場が懸かった準決勝で昨春のセンバツ出場校・彦根総合とぶつかった。相手に2点先制されたものの、四回に一挙6点を上げて逆転勝ち。決勝の滋賀学園戦も先行を許したが、高橋や森島佑斗(同)の適時打などで得点を重ね、7―2で勝利。4年ぶりの優勝を果たし、チームの粘り強さを見せた。 続く近畿大会での戦いぶりがセンバツ出場の可否につながる。選手らは「一戦一戦気持ちを込めて戦い、甲子園を目指す」と練習により力を入れた。大会直前、多賀章仁監督からベンチ入り選手の名前が読み上げられていく。そんな中、名前が呼ばれないことに打ちひしがれる選手がいた。持ち前の明るさと練習への情熱から後輩からも慕われている鈴木誠也(同)だ。 悔しい思いはあったものの「少しでも自分にできることをしよう」とメンバーへ向けた手紙を書くことを決意し、寮で他の選手に知られないように紙に思いを書き連ねた。「言葉がメンバーの背中を押すことができるように。でも気負わせすぎないように」と一言一言、気持ちを込めた手紙を2年生の幹部に託した。 興国(大阪)との近畿大会初戦。試合開始前に組んだ円陣で、鈴木から指名を受けたチームのムードメーカー、後根拓生(2年)は心を込めて鈴木からの手紙を読んだ。チームは勢いづき、先発の西山はわずか76球で相手を完封する快投を見せた。どのような立場でもベストを尽くし、互いを高め合って野球を楽しむ「エンジョイベースボール」をチームが体現した瞬間だった。 多賀監督は、「守備陣も西山の投球に集中することで打球に素早く反応でき、もり立てることができた」と評価。チームが一体となってつかんだ勝利に「新チームで『エンジョイベースボール』が実現できた」と手応えを感じた。 勝てばセンバツに大きく近付く準々決勝の京都国際(京都)戦も初戦に続いて接戦となり、互いに無得点のまま九回の攻防に入る。攻撃では森島の二塁打で好機を得たが1本が出ず、その裏の守りでピンチを迎えると西山が適時打を浴び、サヨナラで惜敗した。多賀監督は「チームに隙(すき)があった。西山もここぞという時に決めるピッチャーになってほしい」と奮起を促した。打線も近畿大会では2試合で2得点のみ。近江のつなぐ野球ができなくなってきている。新たな課題を前に選手たちは冬の練習に入った。【菊池真由】