「口止め料裁判」で12人の陪審員が全員「有罪」の評決、「トランプ有罪」判決は大統領選に何をもたらすか
実際に口止め料を支払った元顧問弁護士マイケル・コーエン氏が「トランプ氏の指示だった」と証言すれば、弁護側が「コーエンは史上最大の嘘つき」と主張するなど、ドラマチックでもあった。ただしこの間、法廷に長時間釘付けになり、自分に対する訴えを黙って聞いていなければならなかったトランプさんにとっては、さぞかし難行苦行の時間であったことだろう。 12人の陪審員のバックグラウンドに関しては、報道が過熱気味となっていた。本来は完全匿名で行われるべきところ、内訳が「男性7人、女性5人」であるとか、本職の弁護士が2人含まれているとか、「陪審員長はアイルランド移民の営業職」であるとか、トランプさんのSNSフォロワーが含まれているといったことまで、幅広く報道されていた。
それにしても、わずか2日間で12人の陪審員による意見の完全一致を見たのは、いかなるマジックがあったのか。おそらくは弁護団の作戦ミスだったのであろう。「トランプさんはダニエルズさんと事に及んだわけではなく、支払われた13万ドルは完全に合法的な弁護士費用であった」というストーリーは、さすがに受け入れてもらえなかったようである。 ダニエルズさんの法廷証言によれば、事に及んだ際にトランプさんは彼女に対し、「アダルト・ビジネスでは、男優と女優の取り分はどうなっているのか?」などと尋ねたのだそうだ。いやもう、あまりにもトランプさんらしくて、これが作り話であるとは誰も思えなかったのではないだろうか。
そのうえ、トランプさんは公判中にさまざまな不規則発言を発して、裁判官や検察官、証人や陪審員を侮辱している。こんな風に心証を害してしまうと、弁護側も納得したうえで選ばれた「党派色がないはず」の12人の陪審員が、「瞬殺」で有罪を宣告してしまった。限りなく「自業自得」だったんじゃないだろうか。 ■日米での「正義」についてのギャップはかくも違う さて、陪審員制度というと、思い浮かぶのは映画『十二人の怒れる男』(Twelve Angry Men)である。1957年のこの映画は、今見るとどうにも古臭い。モノクロであるし、喫煙シーンが多いし、そもそも登場人物は全員白人男性である。それでも「正義とは何か」についての日米のギャップ(隔たり)を知る際に、この映画は素晴らしいテキストではないかと思う。