【国立大の学費問題】東大生の親の4割が該当の「年収1000万円」は“裕福”と言えるのか
すると、第1子が中学受験のために小学4年生から塾に通い始めるとともに赤字転落し、第2子が大学を卒業するまで約15年間も赤字が続いてしまう。子どもの就学までにまとまった貯蓄がある(試算では便宜上、開始時点での貯蓄をゼロに設定しているため)、または実家から学費の援助を受けられるなど特別な事情がない限り、対策なしでは家計はほぼ確実に破綻してしまうことになる〈図2〉。
外食も控えて…
最近増加している進学塾や私立中高の特待制度で教育費を抑える方法もあるが、当然ながら誰もが利用できる制度ではない。収入が増える見込みがない限り、可能な限り支出を切り詰める必要に迫られるはずだ。 そうなると、年末年始や夏休みの家族旅行費は真っ先に削減せざるを得ないだろう。宿泊費に新幹線代、航空券代が家族3、4人分かかれば、国内でもすぐに10万円を超えてしまう。インバウンドの拡大で観光地のホテル代が高騰している影響もあり、筆者の友人は年末に北海道旅行に行こうと旅行サイトで見積もりをしたところ、標準ランクのホテルに泊まり格安航空を往復利用しても家族4人で50万円近くになり、諦めたという。ましてこの円安下にあっては海外旅行などもってのほかだ。 また、マイカーはそもそも所有しないか、手放さざるを得ないのではないか。駐車場代やガソリン代等の維持費を合わせた月数万円のマイカー費用を浮かせるために役立つのが、電動自転車だ。子どもの送迎はもちろん、休日のレジャーもすべて自転車を駆使し、子どもを荷台に乗せて十数キロを移動する強者もいると言う。 もちろん外食は極力避ける必要がある。共働き家庭の場合、完全に外食なしの生活は難しいかもしれないが、行くとしても低価格帯のファミレスか1皿100円の回転寿司が限界で、子どもに好きな料理を注文させても、親は周囲の目を気にしながら注文せず、帰宅してから自炊するという涙ぐましい話も聞く。 このように、都市部では世帯年収が1000万円あっても、特に子ども2人が私立中高に進学するような場合、親はつましい努力を重ねることになる。最低限の生活には不自由しなくとも、従来の「1000万円」のイメージとはかけ離れた、実に質素な印象を抱くのではないだろうか。 *** 加藤氏は著書の中で、1975年度には3万円台だった国立大学の授業料が現在では約15倍になっている一方で平均月収はそれほど変わっていないなど、子どもを大学に進学させる経済的ハードルが高まっている、と指摘している。 今年5月には文部科学省の審議会では「国立大学の学費を年間150万円に」という提言もなされた。 懸命な節約生活の末に子どもの教育費を捻出し「中高にお金がかかったぶん、せめて大学は国立に」という一縷の望みを抱いていた親たちの悲鳴が、今にも聞こえてきそうだ。
加藤梨里(かとうりり) ファイナンシャルプランナー。慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科修士課程修了。保険会社、信託銀行、ファイナンシャルプランナー会社を経て2014年に独立。マネーステップオフィス株式会社代表取締役。著書に『世帯年収1000万円』、監修に『ガッツリ貯まる貯金レシピ』等。 デイリー新潮編集部
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