『スプラ3』シオカラーズ、テンタクルズ、すりみ連合が集結 過去、現在、未来まで愛される音楽世界に迫る
2024年9月13日の午前9時から9月16日午前9時にかけて、バンカラ街近くの専用会場で『グランドフェスティバル』が世界同時開催される。出演アーティストはシオカラーズ、テンタクルズ、すりみ連合の3組で、イベント中には会場内に設けられた3つのステージでのパフォーマンスに加えて、3組による合同ユニット・ヌラネバセブンによる新曲「タイム・トライブ」のパフォーマンス披露も予定されている。『スプラ3』シオカラーズ、テンタクルズ、すりみ連合が集結 過去、現在、未来まで愛される音楽世界に迫るこれまでにも様々な“フェス”が開催されてきたが、今回の『グランドフェスティバル』は過去最大規模のものとなっており、会場内には記念撮影ブースなども設けられるとのことだ。9月1日からはヨビ祭りがスタートしているため、『グランドフェスティバル』の準備をしっかりと済ませておきたい。 【写真】ゲーム音楽の歴史と未来について語り合う任天堂・近藤浩治氏×サカナクション・岩寺基晴 ......知らない方のために説明すると、これはNintendo Switch向けゲーム『スプラトゥーン3』のゲーム内イベント、『グランドフェスティバル』の話である。とはいえ、たかがゲームの話と思うなかれ。まるで実在する音楽フェスティバルのように丁寧に作られたイベントの公式ホームページや、3組のアーティストが一同に介したアーティスト写真、ゲーム内では実際にフェスTシャツやリストバンドを購入してプレイヤーに身に着けることができるなど、その本気ぶりはリアルに匹敵するレベルだ。実際、今回の『グランドフェスティバル』は今や任天堂を代表するシリーズの一つとなった『スプラトゥーン』シリーズ史上最大規模のゲーム内イベントとなっており、これまでの歴史における集大成と言ってもいい。それこそ夏フェスにワクワクする音楽リスナーのように、今か今かとこのイベントを待ちわびているプレイヤーが世界中にたくさんいることだろう。 何より、『スプラトゥーン』といえば、音楽面における人気の高さで知られているシリーズでもある。2015年にリリースされたシリーズ第1作のサウンドトラックは、オリコン週間CDアルバムランキングで2位にランクインするほどのヒットを記録。アーティストがホログラムとなってステージ上に登場するバーチャルコンサートは、日本のみならず、フランス・パリの『Japan Expo 2016』でも開催されるなど、その音楽は単なるゲームのサウンドトラックという枠を超えた幅広い支持を集めている(さらにはライブアルバムも存在する)。イベント中の72時間にわたって各ユニットの楽曲が披露される今回のイベントは、まさしく“バーチャル音楽フェスティバル”でもあるのだ。 ■ストリートカルチャーからの影響を投影、独自の捻りを効かせた『スプラトゥーン』の音楽 これまでに数々の任天堂作品の楽曲を手掛けてきた峰岸透、藤井志帆、永松亮(『2』、『3』に参加)、高橋優海(『3』に参加)、土肥紗也子(『3』に参加)らによる『スプラトゥーン』の音楽は、音楽性こそバラエティに富んでいるが、シリーズ全体を貫くストリートカルチャーからの影響を投影しているという点では一貫している。作中の楽曲はいずれも架空のアーティストが手掛けているという設定が用意されており、Squid Squad(00年代的パンクロック)、Hightide Era(ピアノロック)といったスタイリッシュなものから、Cala Marley(レゲエ)やDedf1sh(エレクトロ)といった元ネタが明確なものまで、ジャンルごとにアートスタイルや背景まで含めた差別化が図られている。 その中でも特に個性が際立つ存在としてフィーチャーされているのが、作品ごとのシリーズの顔役としても活躍する、シオカラーズ、テンタクルズ、すりみ連合の3組だ。言わば、『スプラトゥーン』という架空の世界の音楽シーンにおけるトップアーティストである。 ■シリーズの顔としても活躍する民謡歌手出身の正統派アイドル・シオカラーズ 2015年に発売されたシリーズ初作から登場しているシオカラーズは、脱力系ツッコミ担当のホタルと天真爛漫なボケ担当のアオリという対照的な二人からなる、まさに正統派アイドルという位置付けのユニットだ。これまでシリーズ全作に登場し、2016年の『闘会議2016』でのライブデビュー以来、リアルでのパフォーマンスも最多出演数を誇る。 一方で、その出自には捻りが効いており、二人とももともとは民謡歌手出身で、地元民謡を現代風にアレンジしたことでブレイクしたという経歴の持ち主である。その特徴が最も顕著に表れているのが、今ではシリーズを代表する楽曲として親しまれている「シオカラ節」だ。エレクトロポップにアレンジされた楽曲という意味ではPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅなどを彷彿とさせるが、そのメロディや歌い方には民謡からの影響がしっかりと反映されており、単なる模倣ではないユニークな手触りを生み出している。「ハイカラシンカ」や「マリタイム・メモリー」といった他の楽曲についても、(「シオカラ節」ほどではないが)同様の民謡からの影響を感じさせる仕上がりとなっている。しかし、それ以上に重要なのは、多くの楽曲においてどこか哀愁漂うメロディを忍ばせているという点だろう。『スプラトゥーン』は哺乳類が滅び、その代わりに海洋生物が進化を遂げたポストアポカリプスの世界観を有しており、前面に打ち出されたストリートカルチャーの裏側で、“滅んだ人類の名残”がさまざまな形でスパイスとなって機能している。それは、シオカラーズのポップでユニークな音楽性に、さらなる独特の奥深さを与えており、だからこそ彼女たちの音楽はリリースから10年近くが経った今でも変わることなく愛され続けているのではないだろうか。 ■1MC+1DJ&ボーカルのアンダーグラウンド感あふれる音楽ユニット・テンタクルズ 初作から約2年後に発売された『スプラトゥーン2』(2017年)から登場したのが、毒舌ラッパーのヒメと、しっかり者で天然なDJのイイダからなる1MC+1DJ&ボーカルの音楽ユニット、テンタクルズだ。『スプラトゥーン』の開発陣はシリーズにおけるテーマや各作品ごとの変化を“カウンターカルチャー”に喩えているが、それはテンタクルズにおいても同様で、まさに正統派アイドルとは対照にある、アンダーグラウンド感のあるヒップホップユニット的な佇まいである。アレンジについてはシオカラーズ同様にエレクトロポップ色が強いが、疾走感に満ちた「フルスロットル・テンタクル」や「レッド・ホット・エゴイスト」など全体的にシオカラーズよりもアップテンポで、ラップパートが導入されたことによってリズムやグルーヴをより強く感じられる仕上がりとなっている。どちらの楽曲も、ドラムンベースを大胆に導入しているというのも印象的だ。また、ヒメによる軽快なヴァースとイイダによる美しいボーカルのコントラストに魅了されるエレクトロディスコ「ウルトラ・カラーパルス」など、1MC+1DJ&ボーカルの構成を活かした楽曲も見どころだ。 ちなみにファッション面においても、ゲーム内でヒメがノトーリアス・B.I.G.、イイダが2パックという、ヒップホップシーンにおけるレジェンド中のレジェンドを彷彿とさせる衣装を身にまとう場面があり、参照元へのリスペクトを感じさせる。もっとも、ゲームのストーリーではまさに90年代のヒップホップシーンで起きた東西抗争を象徴する2名ということで、ファンの一部は不穏な結末を恐れていたが、少なくとも現時点では両者ともに無事である。