「プロ志望届“出す・出さない”なぜ揺れた?」大社高ドラフトに密着、藤原佑は指名されず…記者が見た「名前が呼ばれない空気」「響く“じゃがりこ”の音」
呼ばれない名前、響く「じゃがりこ」の音
私を含め、その情報を聞きつけた報道陣が、ドラフト当日に大社を訪れた。夏の活躍を伝える新聞記事が貼られた玄関口をくぐると、「報道の方はこちら」と書かれたホワイトボードが目に飛び込む。矢印に従って進むと、我々の待機場であり、指名後には会見場として使用される予定の会議室にたどり着いた。 支配下指名が着々と進む最中に到着すると、すでに多くの記者が詰めている。ドラフト会議が始まる午後5時前から待機している社もいたようだった。 会議中の過ごし方は三者三様だった。テレビ局の者は3日後に迫っていた衆議院議員総選挙の準備に追われていると疲れ顔で話しながら、互いを労い合う。3人横並びで長机に座っていた、新聞社の若手記者たちは別の原稿を抱えていたのだろうか、一心不乱にキーボードを叩いていた。 指名対象の本人、ともに吉報を待つ指導者とは比べものにならないが、ドラフト取材に臨む我々のような立場の人間にも、少なからず緊張感はある。 会議が進み、指名の可能性が狭まってくると、本人、指導者が同席していなくとも、場は閉塞感のようなものに包まれる。支配下指名が終わり、育成ドラフトに突入するころには、談笑する声もまばらになり、新聞記者の一人がスナック菓子の「じゃがりこ」を食べる音がはっきりと聞き取れるほど、会議室は静けさに満ちていた。
石飛監督「すみません! 失礼します!」
昼白色の蛍光灯に照らされた一室に設置された、アナログ式の掛け時計の針が午後8時25分を指したころ、「皆さん、すみません! 失礼します!」の声が響く。監督の石飛文太だ。 ドラフト会議上では、ソフトバンクが育成11位で千葉経大付の木下勇人を指名したタイミングだった。石飛がスマートフォンに映し出された会議の模様を見ながらつぶやく。 「ソフトバンク11位か。すごいな。もう少しいくのか? (13位まで指名し)あ、終わりました」 育成ドラフトの終了を見届けた石飛の「よし、やりましょうか」の一声が、会見のスタートの合図だった。指名のなかった藤原に代わり、石飛の質疑応答が始まった。 <後編に続く>
(「甲子園の風」井上幸太 = 文)
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