『光る君へ』藤原隆家役は竜星涼の新たな代表作に “問題児”から“頼れるリーダー”への軌跡
NHK大河ドラマ『光る君へ』第46回「刀伊の入寇」で、まひろ(吉高由里子)は亡き夫が働いていた大宰府で、太宰権帥の隆家(竜星涼)と出会った。隆家はまひろが藤原彰子(見上愛)の女房・藤式部だと思い出すと、「太閤様から、そなたを丁重にもてなし、旅の安全を図るようお達しがあった」と告げる。 【写真】少年のような心から爽やかな笑顔の隆家(竜星涼) まひろの前に現れた隆家はひげを生やし、内裏にいた頃とは違う風貌をしていたが、闊達な性格は変わっていない。隆家はまひろの前で「俺たちを追いやった『源氏の物語』を書いた女房をもてなせとは酷なお達しだ」と言ってのけるが、あまり嫌味に聞こえないのは小さなものごとにこだわらない隆家だからこそ。加えて、武者の平為賢(神尾佑)など「信じるに足る仲間」との出会いが彼の心をより明るくしたことが、武者たちとの関わり方やまひろをもてなす隆家の晴れやかな笑顔から伝わってきた。 第46回は、異国の賊から国を守るために出陣を決意する隆家の猛々しさが見せ場の一つとなったが、同時に隆家の清々しい表情が印象的な回でもある。闊達さはそのままに、これまで以上に思いきりのいい笑顔を見せる竜星の演技を見ていると、隆家が内裏のような狭い世界から離れたことで本当に求めていた生き方を得られたように感じられた。 竜星が演じる隆家が初めて登場したのは第16回。第16回の隆家と第46回の隆家ではだいぶ印象が違う。この頃の隆家は、才色兼備で自信家な兄・伊周(三浦翔平)とは違い、何事にも冷めている印象があった。皮肉めいた目で一瞥したり、鼻で笑ったりと、伊周とはまた異なる“問題児”の雰囲気が漂う。実際、花山院(本郷奏多)の牛車に矢を放ち、家が没落するきっかけを生んでしまったのは隆家だ。 一方で隆家は、家族や政を達観する道長に似た雰囲気も持ち合わせていた。誰に対しても高圧的な態度をとりがちな兄と違い、隆家は他者や物事に中立的な態度で向き合う。第20回で配流が決まった際、自身に下った処分を真摯に受け止める姿には、第46回で武者たちを率いた堂々たる姿の片鱗が垣間見えた。 とはいえ、初登場時にトラブルメーカーの雰囲気を醸し出していたこともあり、復職した隆家が何かと道長に近づく度、行成(渡辺大知)のように隆家の言動を警戒し、怪しんだ視聴者もいるのではないだろうか。しかし竜星は公式ガイドブックにて「隆家は家が没落しても、過去にしがみついたり復讐したりする気持ちはありません。左遷がきっかけで大人になったのだと思います。彼には『捨てる勇気』があるんですよね。そして新しい場所に飛び込む勇気も持っています」とコメントしている。道長への言動は決して媚びへつらいではない。過去は過去として割り切り、未来を考えて生きる隆家は、今の自分にできる政治の場での立ち回り方を考え、行動しているだけなのだ。 そして隆家が元来、家族思いであり、人とのつながりを大切に思う人物だと分かったのが第35回。隆家は伊周が道長を襲撃するのを阻止した。自らの行動によって兄の行く末を阻んだことを反省し、兄がこれ以上罪を重ねないようにと願ってのことだった。隆家がふいに見せた涙に、心の底から兄を心配する隆家の思いが詰まっていた。 どんなに憎まれようと、兄と向き合い続けた隆家。おそらく、そんな彼の実直さが武者である平為賢らと向き合った際、彼らに伝わったのだろう。まひろを宋の茶でもてなす場面で、隆家は「ここには仲間がおる」と話すと、為賢に顔を向けて「為賢は武者だが、信じるに足る仲間だ」と口にした。為賢を見る隆家のまなざしはまっすぐで、本心から仲間として接していることが伝わってくる。隆家について語る為賢の誠実な口ぶりもあいまって、2人が身分を超えた信頼関係を築き上げたことが感じ取れた。 まひろのために開いた宴の席で、まひろと隆家はこんな言葉を交わす。 「隆家様は明るく頼もしきお仲間に囲まれておられるのですね」 「ああ。ここは気取らずにいられる場所だ」 気取らずにいられる場所で、藤原友近(出合正幸)や藤原助高(松田賢二)、為賢と舞う隆家は心の底から楽しそうに見えた。第16回で伊周から「お前も舞え」と言われた時に見せた挑発的な顔や退屈そうな顔とは別物だ。 竜星は公式サイトで公開されているキャストインタビュー動画「君かたり」で、「自分たちの手を汚してまで、自ら行動して何かをするっていうことはしてこなかった人たちがやっぱり周りには多いので、身を粉にして泥にまみれながら戦うといいますか、働くといいますかね、そういう人たちにやっぱり出会えなかったし、きっと彼は出会いたかったんだろうし、そういう部分では大宰府にいる隆家っていうのは本来こうなりたかった自分の像に近いんじゃないかなというのは思いますね」と語っている。 隆家は身を粉にして戦う人たちとの出会いによって、“本来こうなりたかった自分”を手に入れた。彼は自らも先陣を切って異国の海賊との戦いに臨む。次回、武者たちとともに異国の海賊を食い止める隆家の姿は、よりいっそう魅力的に映るはずだ。
片山香帆