大正期、横浜の女系一族で起きた殺人事件ーー 日本推理作家協会賞受賞作家の新たな代表作など四篇(レビュー)
阿津川辰海の『バーニング・ダンサー』(角川書店)は、意志の力で何かを実現する特殊能力――燃やす、凍らせる、等――を現代社会に織り込んだ警察小説だ。それも、ジェフリー・ディーヴァーの著作のような、ドンデン返し連発型で、名犯人対名探偵型のスリリングな一作である。本書は、名犯人も名探偵(警視庁の新組織)も特殊能力を使う点が特徴。この世に百種あるという特殊能力の活かし方にも著者の機知(と趣味)が発揮されていて素敵だ。すぐにでも続篇を読みたくなる。 その阿津川辰海が帯に賛辞を寄せたのが松城明の『蛇影の館』(光文社)だ。人体に潜入し、記憶と肉体を乗っ取る〈蛇〉。著者は、館に閉じ込められた高校生たちと〈蛇〉たちを巧みに操り、ロジカルな本格ミステリを〈蛇〉の視点で成立させた。まさかそこに盲点があったとは。満足満足。 [レビュアー]村上貴史(書評家) むらかみ・たかし 協力:新潮社 新潮社 小説新潮 Book Bang編集部 新潮社
新潮社