ボコ・ハラムがISに忠誠 「イスラム国」はアフリカにも広がる? 国際政治学者・六辻彰二
利用価値は高くないボコ・ハラム
一方、ISからみた場合、ボコ・ハラムは必ずしも利用価値の高い集団ではありません。ボコ・ハラムのメンバーは純粋なアフリカ人が多く、「テロの本場」中東・北アフリカでの戦闘経験などがほとんどありません。しかも、誘拐の身代金や人身売買がその主な財源であるため、経済的にも潤沢とはいえません。つまり、ボコ・ハラムを傘下に収めることは、ISにとって訓練や資金を一方的に提供する「持ち出し」になりやすいのです。 これに加えて、米国の情報調査会社IHSジェーンズのテロ専門家マシュー・ヘンマンが指摘するように、ISとボコ・ハラムはいずれも市民を標的にしたテロを行いながらも、違いもあります。ISによる非ムスリム系市民の攻撃には、カリフ国家設立というプロジェクトを宣伝し、戦闘員をリクルートする政治的な目的があるのに対して、ボコ・ハラムによる身代金目的の誘拐はあからさまに商業的で、その殺戮はより見境のないものです。多くの人からみて両者はほぼ同じですが、いわばプロのテロ集団からみた場合、野盗に近い集団は、少なくとも「仲間」とは映りません。またCNNは「ISにはアフリカ人に対する人種差別的な偏見があり、関係がうまくいくか疑問」という米国務省関係者の発言を紹介しています。 それでも、ISにとって「ボコ・ハラムの忠誠を受け入れない」という選択は、ほとんどなかったとみられます。2014年6月、ISは「5年以内にスペイン南部から中国北西部に至るエリアにカリフ国家を打ち立てる」と宣言しました。これを受けて、既にパキスタン、エジプト、リビアなどの勢力がISに忠誠を誓う一方、実際に各国からムスリムがISに流入しています。いわば前代未聞のプロジェクトを、しかも期限を区切って打ち出していることが支持者予備軍の関心を引き付けているのであって、宣伝としては非常に巧妙なものといえます。 ただし、有志連合による空爆などで勢力圏の拡大が鈍化するなか、さらに人員をリクルートしたいISとしては、「プロジェクトが順調に進んでいる」という、支持者予備軍にアピールできる成果が必要です。その意味では、2014年5月の女子学生誘拐事件などに代表されるように、世界的なメディア露出が小さくないボコ・ハラムからの忠誠を拒絶する理由はありません。