「建設に約30億円」...!?ニセコ町に差し迫るインフラ問題、「ニセコ市」になれないワケとは
今や世界中から富裕層がこぞって訪れる冬の高級リゾート地となった北海道ニセコ。どうやってニセコはインバウンドをものにしたのか。海外の富裕層を取り込む外国資本の戦略、日本の観光に足りていないものとは何なのか。ニセコの成功の背景を、リゾート地・富裕層ビジネス・不動産投資の知見をもつ筆者が、これらの謎をひも解く。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション *『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(高橋克英著)より抜粋してお届けする。 『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』連載第52回 『規制ばかりのリゾート地には辟易…民間企業の手に負えなくなったニセコリゾート、グダグダな行政が「唯一」行うべきこととは?』より続く
「ニセコ市」誕生の可能性は?
しかし、ニセコで建設ラッシュなのは、高級ホテルや高級コンドミニアムだけではない。 俱知安町では2020年度中の完成を目指して新庁舎を建設中だ。鉄筋コンクリート造3階建て、延べ床面積は4159m2の、耐震性、安全性に優れ、防災機能が整った庁舎になるという。事業費は約30億円だ。 ニセコ町でも2021年2月の完成に向けて、防災活動拠点にもなる新庁舎建設工事が進んでいる。基本構想、基本設計、実施設計と検討を重ね、地上3階、地下1階、鉄筋コンクリート造、延べ床面積約3300m2とし、事業費は約20億円を目指している。 それぞれ築50年を超える現庁舎の老朽化によるものではあるが、両町が本部を新調しているということは、現時点では合併という選択肢は現実的にはほとんどないのかもしれない。実際、今は北海道虻田郡内6町2村の中の俱知安町とニセコ町に過ぎない。「ニセコ市」になるには、人口5万人以上の要件を満たす必要があるが、俱知安町は人口1万5351人、ニセコ町は人口4958人に過ぎない(2020年7月末)。
ニセコ分断の可能性
だが、この先も俱知安町とニセコ町はそのままで、ニセコ全体を統括する黒子としての行政の司令塔不在の状況が続くとしたら、どうなるだろうか。 行政や政治の行方や思惑とは裏腹に、外資系資本による大規模開発は続くことになり、個々の自治体だけではインフラ整備や環境整備に対応できず、結局は地元住民の不利益にも繫がることになろう。地元住民はますます蚊帳の外となり、ニセコに2つの経済圏ができ、「山の上の外資富裕層の経済圏」と「山の下の地元民の生活圏」という形で分断されかねない。 また、ニセコといえども人口減少や少子高齢化、過疎化といった日本を取り巻く中長期的なマクロトレンドから逃れることはできない。この先、地方自治体の数多くが、人口減少→産業の衰退→個人や法人からの税収の減少→インフラ整備や社会保障費の不足→過疎化が更に進む→財政破綻という負のサイクルを歩むことになる。北海道には、夕張市の財政破綻という前例もすでにある。 俱知安町とニセコ町はこのままでいいのだろうか。水資源や道路整備などインフラ整備は差し迫った課題だ。ニセコリゾートという特別な資産を生かし、更なる地元の発展のためにも、まだ余裕があるうちに決断するべきではないだろうか。 2030年度に開業予定の北海道新幹線の新駅は、「俱知安駅」ではなく、俱知安町とニセコ町などが合併し、その記念も込めて「ニセコ駅」または、「ニセコリゾート駅」などとなっていることを願うばかりである。 『観光客は「富裕層」か「それ以外」か...《失敗を恐れる》日本の観光ビジネスは「海外富裕層ファースト」のニセコに学べ』へ続く 【ニセコの最新の状況についてはこちらの記事もご参考ください】
高橋 克英(金融アナリスト)
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