「マネージャーなしでやれる人間ばっかりだ」生前、ジャニー喜多川は現在の「エージェント制」を予見していた
「マネージャーなしでやれる人間ばっかりだ」
2023年はジャニー喜多川の性加害を理由に、事務所の存続を危ぶむ声が各種報道で見られたが、その前に同じような声が多く見られたのは、その4年前。同じくジャニー喜多川の逝去のタイミングだった。ジャニーズ事務所の創業者であるというだけではなく、ここまでも述べてきたように、メンバーの選定・育成や舞台の演出など、その感覚に依拠していたところが大きいがゆえだろう。死の前から、ジャニー喜多川がいなくなったらジャニーズ事務所はまずいのでは、という声もあった。だが、本人は、生前、自分が死んでも大丈夫だと語っていた。 「ジャニーが死んじゃったら、あとはないんじゃないかって言う人がいるの。マネジャーなしで、自分でやれる人間ばっかりなんですよ。まだ、ボクがいるから、遠慮してるとこ、あると思う。ボクいなかったら、それこそ大活躍できるんじゃないかなあ。だから、ボクが知らん顔して消えちゃったとしても、十分できますよ」 「マネージャーなしで自分でやれる人間ばっかりだ」とは現在の感覚だと「エージェント制度でも大丈夫」とも受け取れるような発言である。こう言える理由はその指導方針にあるようだ。Sexy Zone(現・timelesz)の松島聡はこう語っている。 「僕たちはジャニーさんから“自分で考えなさい、自分で行動しなさい、他人と同じことをするのをやめなさい”と育てられた」 他にもSnow Manの宮舘涼太は「ジャニー(喜多川)さんの教えって、自分の考えたことをそのままやってみなよ、っていう感じだったんです」と振り返っているなど、「自分の頭で考える」はその指導の中核にあるようである。 さらに関ジャニ∞(現・SUPER EIGHT)の横山裕は「ジャニーさんに言われたことで色濃く記憶しているのが、バラエティに出た時でも『前の人と違うことを言いなさい』ということで。たぶん、そうした教えがみんなの根底にある」と語っており「他人と違うことをする」もやはり指導の中心にある。 このジャニーズタレントたちが自分の頭で考えるという傾向は、ジャニー喜多川の死を経てより強くなったようである。 光GENJIの佐藤アツヒロは、死後2年後にこう語っている。 「うちの事務所は基本的に本人発信で、それにジャニーさんがプラスアルファしてくれていた。そこがなくなってしまったので、自分たちで全部考えないと何も生まれなくなったんです」 “すべてを与えられ言われたままにする”のではなく“タレント自ら創っていく”芸能事としては珍しいジャニーズ事務所の特性が、ジャニー喜多川の死後、より色濃くなった。ジャニー喜多川がしてきたのは“人形づくり”ではなく“人間づくり”である。人形は自分の意思では動けないが、人間は自分の意思で考え、動くことができるのだ。
霜田 明寛(作家・文化系マガジン チェリー編集長)