「人間なんで」感じた動揺 松山英樹は“まさかの”窮地から待望の10勝目
◇米国男子プレーオフ第1戦◇フェデックスセントジュード選手権 最終日(18日)◇TPCサウスウィンド(テネシー州)◇7243yd(パー70) 【画像】松山英樹のパットを支えた新パター「クラフツマン」とは 場内に充満した逃げ切りムードが突如として弾けた。スタート時の5打のリードを守って迎えたサンデーバックナイン。松山英樹は窮地に追い込まれた。後半13番からの4ホールでまさかの4打後退。節目のPGAツアー10勝目の前に深い霧が立ち込めた。 2つ目のバーディを奪った直後の後半12番で3パットボギー。ティショットを池に入れた14番(パー3)をボギーでしのいだが、さらに深い落とし穴が15番にあった。右ラフからの2打目をグリーンの奥に外すと、ラフからのロブショットが決まらず4オン2パット。痛恨のダブルボギーで首位の座をビクトル・ホブラン(ノルウェー)に明け渡した。 要所での池ポチャを「自分の状態が良くないにもかかわらず、歓声につられた。(池の反対側)ピンの左20フィート(約6m)くらいに落とそうと思っていたが、ミスショットをしてしまった」と悔やむ。15番のアプローチミスはグリーンの反対サイドに流れる小川を意識したもの。チャンスホールの16番(パー5)で、花道からの3打目を寄せきれずパーに終わり、“5打差逆転負け”のフレーズがちらついた。
銅メダルを獲得した「パリ五輪」の直後、英国ロンドンで自身のクレジットカード、サポートスタッフのパスポートを盗まれる事件に遭遇した。一時帰国した早藤将太キャディに代わって、急きょバッグを担いだ田渕大賀キャディは「(松山に)特に変わった様子はなかった」と感じたが、「それ(変化)は人間なんであります」というのが本人の本音。誰もが感じる動揺を跳ね返す強さが、松山にはあった。 前の組のホブランがボギーをたたいた17番、再び首位で並んだ松山は左ラフからの2打目をピン左手前8mになんとかのせた。集中力を研ぎ澄ませ「あまり考えずに無心で打った」バーディパットはストレートラインの先のカップに飛び込み、渾身のガッツポーズ。パーで勝てる最終18番は残り158ydから8Iを握り、池に近いサイドのピン手前2mにつけてみせた。「(安全な)右に打ちたかったが、勝手に体が反応すると思った」という経験則に基づいたスーパーショットで2連続バーディ締め。アップダウンの大きな「70」、通算17アンダーで2月「ジェネシス招待」以来の今季2勝目を挙げた。
PGAツアー11年目でつかんだプレーオフシリーズでの初優勝。「リビエラ(ジェネシス招待)で9勝目を挙げた後、すぐに10勝目のチャンスもあったが、そこで達成できなかった」という焦りも本人なりに感じていたことを明かす。「このリードで勝てなかったら、もう勝てないんじゃないかと考えることもあります。ホッとしている」。薄氷を踏む勝利には、緊張感とせめぎ合う人間らしさと、常人離れした精神力があふれていた。(テネシー州メンフィス/桂川洋一)