yommインタビュー 韓国から日本へ、赤い風船と再出発の旅
『スクランブル - 東京』全曲解説
─再出発のデビューEP『スクランブル – 東京』について、作品全体のコンセプトを教えてください。 yomm:「日本での初めての旅」を意識しました。ジャケット写真の赤い風船は、Google Mapで行き先を保存する赤いピンみたいなイメージ。私はどこへ向かおうとしているのか、(その過程を記録するように)赤い風船を手にして旅をする。そんな作品になったと思います。 ─収録曲について。1曲目の「Alice」はミツメの川辺素さんによる提供曲で、キーボードのリフレインとメランコリックなメロディが印象的です。 yomm:まず最初、歌詞の意味を知らずに聴いたとき、「Alice」というタイトルと仮歌だけでどんなことを歌っているのかわかりました。童話のようなメロディが素敵だと思います。 ─『鏡の国のアリス』をモチーフにしたのであろう歌詞は、これから日本という別の世界を旅するyommさんの心情を代弁しているようでもありますね。 yomm:あとから歌詞を読んで、とても日本らしい表現だなと思いました。 私が思うに韓国の歌詞はストレートで押しが強いのに対し、日本の歌詞はもっと繊細で、そこに美しさを感じます。 ─川辺さんとはMVで共演も果たしていますが、収録現場ではどんなやり取りが? yomm:一緒に楽器を演奏するシーンがあるんですけど、そこで川辺さんの楽器をいくつかお借りしていて、どんなふうに弾くのがよさそうかアドバイスをいただきました。とても親切に教えてくださったので感謝しています。 ─2曲目の「ミラコー」はカクバリズムに所属するJin Onoさんの提供曲。yommさんはもともと「Dance with me baby」など踊れる曲も歌ってきたので、この曲のディスコもサウンドはすごくフィットしているように感じました。 yomm:メロディやリズムがすごく夏っぽいと思ったので、7月に先行リリースすることができてよかったです。私の声に合わせてくれたアレンジも嬉しくて、とても気に入っています。 ─韓国のラッパー、Layoneさんのフィーチャリングも楽曲に広がりをもたせていますね。 yomm:ラップがものすごく上手くてびっくりしました。あそこまでとは知らなかった。私が日本でライブする日が来たらぜひ出演してほしいとお願いしたくらい。すごくありがたかったです。 ─3曲目の「さらっとパッとピッと」は軽快なアコースティックナンバー。RallyeのレーベルメイトでもあるYeYeさんらしさが存分に発揮されてますね。 yomm:YeYeさんの「ゆらゆら」っていう曲が好きでよく聴いていたので、あの曲にも通じる独自のユニークなスタイルをもつ曲を提供していただけて、本当に光栄でした。私ではこういう曲を書くのは難しいので。 ─4曲目の「初恋」はyomm名義でのデビューシングル。この曲のミュージックビデオに東京タワーが出てきますが、yommさんは2017年に「Tokyo Tower」という曲をリリースしていますよね。何かつながりがあったりするのでしょうか? yomm:そうなんです! 「初恋」は最初のリリースで、私にとって大きな意味をもつ曲になるわけだから、MVも意味のある場所で撮影したくて。昔から好きで東京タワーと名付けた曲も発表しているわけだし、yommをシンボライズする場所としていいんじゃないかなって思いつきました。 ─この曲は荒谷翔大さんが手がけた歌詞や曲調がまた切ないですね。 yomm:私もそう思います。男性が書いた曲で歌詞も三人称ですが、日本の青春映画に出てきそうな、清純で憂いのある女優さんみたいな感じというか。日本でデビューしようとしている今の私とフィットしているように感じました。 ─5曲目の「本で読んだだけ」はキセルの辻村豪文さんによる曲。こちらも日本ならではの情緒が感じられるように思います。 yomm:キセルさんは「一緒にお仕事することになるかも」というタイミングで韓国に来てくれて、ライブに行ったら本当に素晴らしかったんですよね。とても清らかな感じがするというか、日本の田舎にある小さな茅葺きのコテージとか、何にも邪魔されない場所で聴かれるべき音楽だなと。あの日と同じように、この曲が送られてきたときも穏やかなフィーリングを感じました。本当に嬉しかったです。 ─AAAMYYYさんが今回のEPで4曲ボーカル・ディレクションとして参加していますが、日本語で歌うにあたってどんな試行錯誤がありましたか? yomm:韓国語や英語で歌うよりも自分の歌声が美しく聴こえるような気がする反面、発音が思っていた以上に難しかったです。(韓国語には「つ」の発音がないので)「はちゅこい」になったりだとか。そんなときにAAAMYYYさんと、どうすれば歌いやすくなるのか、自然に聞こえるようになるのか、 発音の仕方についてなど相談することができたのは心強かったです。 ─最後の「スクランブル – 東京」はyommさん自らの作詞作曲ですが、日本語と韓国語、英語を織り交ぜながらどんなことを歌いたかったのでしょう? yomm:日本で初めてレコーディングしたあと、韓国に戻ってから作った曲です。東京は観光や遊び目的でこれまで何度か来ていたけど、仕事では今回が初めて。言葉が話せないから誰とも話せないし、約束に遅れるわけにはいかないからGoogle Mapが手放せず、ソウルにいるときみたいに「上手くやらなきゃ」ってプレッシャーがずっとある。でも、ふと空を見上げると東京タワーや渋谷のスクランブルスクエアがあって「ああ、私は日本にいるんだ」と再認識させられる。韓国で味わってきたオフィスワーカーっぽい気分を日本で感じたのは不思議な気分でしたが、なんだか日本で暮らしているみたいだなと思ったりもして。 つまり、この曲は私にとって初めての出張を描いたものです。曲の途中で「迷子になったらどうしよう?」「自分はここにいてもいいのかな?」と困惑するくだりがあるんですけど、終わる頃には「それでも私は東京にいる、なんて素敵な街なんだろう」って思えるようになるという、一編の物語として聴くことができると思います。 ─この曲は高橋健介さん(Qnel/元LUCKY TAPES)のアレンジも素敵です。 yomm:最初に私から「こういう感じになると嬉しいです」みたいなコメントもつけてデモを送ったんですけど、健介さんはその想定を上回るくらい私の歌に合うアレンジを施してくれました。実は曲が出来上がったとき、韓国っぽすぎるかなと心配していたんです。でも、アレンジしてもらったものを聴いたら「ああ、日本だ。これでいいんだ」と思えるようになりました。感謝しています。 ─今後は日本でどのような活動をしていきたいですか? yomm:韓国と比べてライブやフェスなどの機会が多い印象があるので、そういう活動を通じてファンとお会いする機会を増やしていくためにも、いい曲をもっとたくさん作りたいですね。自分のことを知ってもらうために、これからもがんばろうと思います。 --- 『スクランブル - 東京』 yomm 配信中 2024年12月4日LPリリース
Toshiya Oguma