デノン、最上位SACD「DCD-3000NE」。ワイヤーレスとカスタムパーツ大量投入。音質レビュー付き
デノンは、新たなフラッグシップSACDプレーヤー「DCD-3000NE」を12月下旬に発売する。価格は462,000円。 【画像】サウンドマスターの山内慎一氏 既存のフラッグシップである「DCD-SX11」や110周年モデルの「DCD-A110」が2024年12月をもって生産完了となるため、それらに代わる“デノンの新たな顔”として開発されたディスクプレーヤーが「DCD-3000NE」となる。既発売のプリメインアンプ「PMA-3000NE」と同じシリーズであり、組み合わせも想定して開発された。 開発にあたっては、「オーディオ的快感と、音楽的感動の両立」をコンセプトとしている。このコンセプトは、デノン製品の最終的な音を決めるサウンドマネージャー(現在はサウンドマスター)の山内慎一氏が、2019年に、自身が追求するサウンドを具現化した製品として作り上げたアンプ「PMA-SX1 LIMITED」と、SACDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」の時に掲げていたものと同じ。 つまり、DCD-3000NEは、DCD-SX1 LIMITEDを開発した時と似た手法で作られているのが特徴となる。 DCD-3000NEのベースモデルとなるのが、前述の110周年モデル「DCD-A110」。DCD-A110自体が、“デノンの次の10年”を見据えて開発された、完成度の高いモデルだったが、そのDCD-A110の基本的な回路は変えず、それによって生まれた時間を試聴に費やしながら、主要なパートをディスクリート化。その結果、「DCD-A110 LIMITED」とも呼べる製品としてDCD-3000NEが誕生した。 ■ DCD-3000NEの進化点 大きな進化点として、DCD-A110では2層だったオーディオ基板を、DCD-3000NEでは4層に変更。音質に重要なアナログのグランド設計を刷新して強化。デジタル基板やメカからのノイズに強くなった。 さらに、ディスクプレーヤーで熱に弱いピックアップやコンデンサーなどのデバイスへのダメージを抑えるため、DACからの発熱対策としても4層基板は大きく寄与。より安定した動作や製品寿命を延ばす効果もあるという。 さらに、ミニマムシグナルパスを実現するため、基板同士の接続などに使っていたワイヤーを極力廃止するワイヤーレス化も実施。デジタル電源基板、デジタル基板、アナログ基板をそれぞれ、小さな基板で接続した。ワイヤーはノイズを拾うアンテナになるほか、ケーブルの位置などによる製品間のばらつきも抑えられるとのこと。 電源部も改良。デジタル電源、アナログ電源を見直し、独自のSYコンデンサーやカスタムコンデンサーを投入。信号の通らない電源部にもカスタムコンデンサーを投入しても、音質が明らかに向上したため、これら独自のコンデンサーを多数投入している。 アナログ波形再現技術「Ultra AL32 Processing」を搭載しているのは、DCD-A110と同じ。独自のアルゴリズムによるアップサンプリング&ビット拡張処理により、前世代の2倍となるPCM入力信号を1.536MHz/32bitに変換する。 独自のビット拡張&データ補間アルゴリズムにより、前後のデータの離散値からあるべき点を導き出し、本来のアナログ波形を再現する理想的な補間処理を行なうという。これにより、デジタル録音時に失われたデータを高い精度で復元。歪みのない繊細な描写、正確な音の定位、豊かな低域など原音に忠実な再生を実現したとする。 Quad-DAC構成なのも、DCD-A110 LIMITEDと同じだが、DACチップ自体がTIのPCM1795から、ESSの「ES9018K2M」に変更。ステレオDACだが、左右チャンネルにそれぞれ2基(4ch)、合計4基使用。Ultra AL32 Processingによりアップサンプリングされた1.536MHzの信号を768kHzに分割し、2基(4ch)の差動電流出力型DACに入力。片チャンネルあたり4chのDACを用いる並列構成により4倍の電流出力を得られ、高SN比と聴感上のパワーを獲得している。 DACに供給するクロックの精度を最優先するために、DACの近傍にクロック発振器を配置。DACをマスター、周辺回路をスレーブとしてクロック供給を行なうことでD/A変換の精度を高める「DACマスタークロックデザイン」も採用。 さらに、DACまわりでは、I/V変換の出力カスコード回路のパワートランジスタを大型化。オーディオ用のトランジスタではないが、特性が優れていたため、柔軟に採用したとのこと。 I/Vコンバーターの差動入力回路、差動合成回路の定電流源のトランジスタをブラッシュアップさせ、温度変化や耐ノイズ性能を向上させた。 クロックは信号に応じて、DSD用に1種、PCMの44.1系と48系で2種類、合計3種類を搭載している。 他にも、ポストフィルターの定数をES9018K2Mに合わせて最適化。部品点数を削減し、緩やかなロールオフ特性となり、よりクセのない音質になったという。 さらに、DCD-A110から引き継いだ特徴として、I/V回路、差動合成回路はフルディスクリートで設計。D/Aコンバーター回路は大規模になるが、パーツ配置から基板パターンまで、L/Rでシンメトリーになるよう設計されている。 ■ 入念な試聴とサウンドチューニング サウンドマスターの山内氏が、時間をかけて入念にチューニング。音質グレードのコンデンサーはもとより、アナログ/デジタル含め、全てのブロックでデノンのカスタムコンデンサーを投入。SN、NE、PPSC-X、RFY/YH(カスタムコンデンサー)などと呼ばれるもので、いずれも非常に高コストなパーツとなるが、最終的にデジタル電源部に10以上、オーディオ基板に20以上の音質パーツを投入している。 さらに、ワイヤリングやビスの材質、長さなど、細かな点も追求。DCD-A110には静電気対策用として搭載していた銅のプレートを、広い空間表現を得るために廃止。シールドFFCケーブルには、一般的なアルミテープではなく、音質に影響の少ない銅のテープを採用している。 ドライブメカにも工夫がある。メカ自体はDCD-A110に採用しているものと同じだが、メカを覆うトップパネルを、銅から航空機グレードのアルミであるA6061に変更。オーディオ機器では銅が使われる事が多いが、その常識を問い直し、試聴の結果A6061を採用したという。 さらに、電源トランスのベースプレートを、通常のアルミから、A6061グレードのアルミに変更。さらに、1mm厚のものを2枚使っていた構成も、3mm厚×1枚に変更している。 フロントの表示パネルは、VFDからOLEDに変更。多くの情報を日本語で表示できるようになった。 真鍮削り出し金メッキ出力端子を備え、同軸・光デジタル出力は、PCM 192kHzまでの出力が可能。出力端子は、アナログアンバランス×1、同軸デジタル×1、光デジタル×1。リモートコントロール入出力も備えている。 外形寸法は434×405×138mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は16.8kg。消費電力は35W。 ■ 音を聴いてみた DCD-3000NEと、プリメインアンプPMA-3000NEを組み合わせて試聴した。 作り方が似ているという事もあり、別格的なモデルである「DCD-SX1 LIMITED」(891,000円)との違いが気になるところだが、圧倒的な音場の広大さ、奥行きの深さといった部分で、DCD-3000NEはかなりDCD-SX1 LIMITEDに肉薄していると感じる。 それでいて、ワイヤーレス化の効果が大きいと思われるが、音の純度の高さ、ダイレクト感がDCD-3000NEでは増しており、そうした部分ではDCD-SX1 LIMITEDを超えているとも感じられる。半額近い462,000円というDCD-3000NEの価格を考えると、高価な製品ではあるが、コストパフォーマンスは高い。 例えば、「ボブ・ジェームス/Westchester Lady」を聴くと、広大な音場から、繊細なタッチのピアノがスッと立ち上がる様子が、ハイスピードであり、繊細な描写なのだが、それだけで終わらず、1つ1つの音にしっかりとパワーがある。そのため、ピアノの左手の描写も、フォーカスが甘くならず、低い音の中にも芯が感じられる。 ドラムの描写も圧巻で、シンバルの音のトランジェントの良さ、ダイレクトさに磨きがかかった結果、叩いているスティックの木目まで脳裏に浮かびそうなほどのリアリティがある。 山内氏は理想のサウンドとして「Vivid & Spacious」を掲げており、それを体現したプレーヤーとしてDCD-SX1 LIMITEDが存在したが、DCD-3000NEはSpaciousを進化させつつ、Vividさに、よりパワーと実在感がプラスされたような印象を受ける。 この印象はアンプのPMA-3000NEを試聴した時にも感じたもので、今回、PMA-3000NEとDCD-3000NEを組み合わせて聴いた事で、その進化がより強く感じられたというのもあるだろう。 ■ 過去のモデルからどう進化したのか? 過去のデノンを代表するモデルとして、2004年発売の「DCD-SA1」、2013年の「DCD-SX1」との比較試聴も行なった。 DCD-SA1は、当時エンジニアとしてディスクプレーヤーを担当していた山内氏が開発に参加していたモデルで、FPGAを活用し、時間軸領域での情報量を向上させる「Advanced AL24 Processing」を始めて搭載した機種。山内氏も「FPGAを活用して新しい挑戦をしたいという志を持った仲間と一緒に、かなり苦労して作り上げた思い出深いモデル」と振り返る。 なお、DCD-SA1の時はカスタムコンデンサーは無く、9年後のDCD-SX1にはSY、NEといったカスタムコンデンサーを始めて投入。ハイレゾが盛り上がっていた頃に開発されたモデルで、ディスクから読み取ったデータを32bit化して処理する「Advanced AL32」を初搭載したモデルでもある。 「ジェニファー・ウォーンズ/I Can't Hide」やドミニク・ミラーのアルバム「Fourth Wall」から「Gabe」で3機種を聴き比べたが、その“進化具合”は驚きだ。 DCD-SA1のサウンドは、音場の広がりに制限を感じさせない広大さがあり、山内氏の“スペーシャスさ”の片鱗が見えて興味深い。しかし、1つ1つの音の分離感、輪郭のシャープさといった部分が甘く、全体的に音がモコモコした印象を受ける。ゆったりとした広がりは心地良いのだが、シャープさが伴わないため、“雰囲気だけ”の音にも聴こえてしまう。 DCD-SX1になると、分解能が上がり、細かな音が聴き取れるようになる。視力が良くなったような進化だ。特に低域の解像感の進化が著しく、ジェニファー・ウォーンズのベースが、DCD-SA1は弦が緩んだゴム紐のように感じられていたが、DCD-SX1ではピンと張った弦が震える様子が見えてくるようになる。 これらを聴いた後で、DCD-3000NEに切り替えると、衝撃的と言って良いほど音が違う。 最も違うのは音場の描写。過去の2機種でも、フワッとした音の広がりは感じられたが、DCD-3000NEで聴くと、音の奥行きが一気に深くなり、その奥行きを背にしながら楽器やボーカルの音像が定位し、それらが奏でる音楽が聴いている自分の方向にブワッと押し寄せてくるという、レイヤーが感じられる。また、定位する音像にもしっかりと厚みがある。 こうした進化により、本当に目の前にステージがあり、そこにミュージシャンが立って演奏しているというリアリティが、DCD-3000NEの音にはある。もちろん、この“生っぽさ”は、定位や音場の描写だけで成立するものではなく、音像が奏でるサウンドそのものが、クリアで、情報量が多くなければ“本当に目の前で歌っている”ようには感じられない。その両方が大きく進化したからこそ、DCD-3000NEのような実在感のあるサウンドが得られるのだと痛感する。 製品ジャンルとして、特にデジタルのプレーヤーは、進化が著しいものだが、過去の名機と改めて比較すると、その進化具合に唸らされる。昨今はハイレゾ配信が話題になる事が多いが、SACDプレーヤーにも、まだまだ進化の余地がある事もわかった。まだまだSACD/CDを楽しみたい人に、DCD-3000NEは要注目のプレーヤーと言えそうだ。
AV Watch,山崎健太郎