【新潟】橋本健人が導いた同点弾は「中村俊輔直伝」の左足から。稲村隼翔とのコンビで推進力を生んだメカニズムとは
アルビレックス新潟が残留へ貴重な勝ち点1を手にしたのは、橋本健人の左足がきっかけだった。11月9日の明治安田J1リーグ第36節で柏レイソルに1-1でドロー。アディショナルタイムに追いつく一発は橋本のクロスから生まれている。同じ左利きの中村俊輔に学び、同じく左利きのセンターバック稲村隼翔と推進力を生んだ。 【ゴール動画】アディショナルタイムに藤原奏哉がボレーで決めたこの一撃! ■2024年11月9日 J 1第36節(観衆14,472人/@三協F柏) 柏 1-1 新潟 得点:(柏)細谷真大 (新)藤原奏哉
斜めの段違い
自慢の左足が歓喜を呼び込んだ。 0-1と敗戦濃厚の空気の中で迎えた90+4分だ。橋本健人は左サイド深くで星雄次からパスを受けるとクロス…ではなくて、キックフェイントで相手を転ばせた。 「相手が飛び込んできていたし、それまではそのまま上げていたので、1回切り返そうと」 そしてもう一つ前に運んで、今度は本当にクロスを送った。 「よく中村俊輔さんが、前半はクロスをいっぱい上げてから後半に切り返す、という話をしているのを聞いていて……あ、そういうことを言うと使われちゃうから俊輔さんに申し訳ないなあ」 そう笑わせたが、昨年、横浜FCでコーチと選手という立場で共闘し、同じ左利きとして、これ以上ないお手本に学んできた。 蹴り出したクロスは、遠いサイドへのハイボール。タイムアップが迫る状況でも、滞空時間の長いボールには狙いを込めていた。 「1点でも取らないといけない局面で、より攻撃に比重をかけていたところで、ファーが空いてくるというのはリサーチで伝えられていたことだったので、そのおかげかなと」 小見洋太がバックステップを踏みながらヘッドで優しく落とすと、藤原奏哉がコンパクトに右足を振るボレーシュートで仕留めた。土壇場で1-1に追いついて、残留に向けて貴重な勝ち点1をなんとかもぎ取ることができた。 ただ、そこまではなかなかチャンスを作れなかった。特に前半はどちらにとっても静かな展開になり、つまり決定機は少なかった。 「新潟はボランチを経由してサイドチェンジして、スピードがグッと上がったあとに、自分がサイドでフリーになる場面があります。ただ前半はちょっとアバウトというか、せっかく押し込んだのに中の選手のタイミングが合っていないのにクロスを上げてそれっきりになってしまっていた。そこでもう1回、高い位置で揺さぶったり、もう少し3人の関係で(選手同士の)距離を縮めていくのはチームとして求めたいですね」 後半に入ると、左センターバックの稲村隼翔からのパスをワイドで受けて橋本が持ち運ぶ回数を増やし、チームに推進力をもたらした。 「相手がミドルブロックのすごくきれいな4-4-2の布陣で構えてきて、自分たちがポジションチェンジをしたというか、僕が1列、前に上がって、イナムも含めて後ろが3枚になるような形になることで、ちょっとずつズレを突くのはうまくいけそうだと前半から話していました」 これによって稲村と橋本が「斜めの段違い」の立ち位置を取ることができた。もう一つ、前線の活性化の効果も加わった。 「(奥村)仁や長倉(幹樹)が入ってきて背後に走ることによって、奥行きを作ってくれました。それでハーフスペースにより空きができたし、自分が足元でもらえば相手のサイドバックが出づらくなって、後追いになったりしていました。前半もいい立ち位置に立ててはいたけど、動きが出てきた分、オフのところ(ボールを持っていない状態のとき)でも進入しやすくなりました」 その繰り返しによって、ようやくゴールにつながったというわけだ。キックオフから試合終了まで、散発ではなく、多種多様のクロスを何度も何度も入れ続けることが大切なのだと強調する。 「後半はもうボールを上げ続けることで、自分はあそこに出すんだよっていうのを伝え続ければいいかなと」 高く、あるいは低く。近くへ、あるいは遠くへ。前へ、あるいは平行へ、または斜め後ろへ。バリエーション豊かなクロスが最大の武器だと自負している。 「ピッチの3分の1のところでボールを持ったら、クロスでアシストできる自信はあります。チームのみんなもそう思ってくれていると思うので、まずはやっぱりクロスで得点を狙うこと」 「それがあるから、バイタルエリアにもパスを入れることもできる。だから、そこの目線をなくさないように」 「個人だけの話をすれば、クロスをまずファーストチョイスに置いた上で、相手との駆け引きでマイナスを使うパスは自分の良さでもあるし、そこはそもそもクオリティーで打開できるところだと思います」 自信があるから逆に、自らのキックに苦言を隠すことができない。 「狙った場所にいっているときもありましたけど、自分が今後もっと上のレベルで活躍していくことを考えたときには、やっぱりクロスのクオリティーをもっともっと求めたい。最後に点につながりましたけど、それまでも狙っている場所は共有できていたので、あとはもう自分が届けられるかどうかのところになってきます」 つまり、その左足のクロスによって残り2試合で残留を決めてみせるという力強い宣言である。
サッカーマガジンWeb編集部