失敗だらけの甲子園、「一笑」の思い出…報知カメラマンの年イチショット2024
入社2年目で初めて取材した夏の甲子園は失敗だらけの毎日だった。 「帽子のつばの文字が見える写真送って」。本社のデスクから電話で言われるまで、全く気がつかなかった。大会初日の第1試合、4回途中から登板した滋賀学園・高橋侠聖のつばの裏には、撮影画像を見直すと確かに「昼想夜夢」と記されている。「つばもよく見ながら取材するように」と、いきなり“聖地の洗礼”を受けた。 「ピントが甘いぞ」の電話に背筋が凍った。痛いほどの日差しにまだ体が慣れていない3日目。西日本短大付と金足農の一戦は金足農OBの吉田輝星(オリックス)の弟・大輝投手が先発し、「勝っても負けても彼がメーンだろう」と思って取材に臨んだ。しかし154球の熱投は及ばず7回9安打5失点で降板、試合後は号泣しながら2番手の花田晴空と抱き合った。「よっしゃ」と心の中でガッズポーズし、思い通りの絵が撮れたと浮かれながら送信したものの、そんな気分も吹っ飛ぶデスクの一言。あわてて画像を見返すと確かにピントが甘い。翌日の紙面は同じシーンの通信社の写真が使われていた。 暑さにも慣れてきた1週間の準々決勝。撮影担当の試合が終わった4試合目にまた電話が鳴った。「何かあるかもしれないから、大社と神村学園の試合を後半から取材して」。課せられたミッションは、大社側の一塁カメラマン席から「勝っても負けても大社のエース左腕・馬庭優太のこれという1枚」を狙うことだ。3戦連続で完投していた馬庭は疲労を考慮されて先発を回避。同点で迎えた5回から今大会初のリリーフ登板したが5失点、大社の快進撃もここまでとなった。 試合後の大社ナインは涙でみんな下を向いていて、狙っていた馬庭を見失った。ファインダーから目を外して肉眼で探すと、2番手で登板した山本佳汰と抱き合っている。必死にシャッターを押す一瞬、何かが見えた気がした。画像を見返すと、左手から落ちた帽子のつばには「一笑」の文字。ピントもばっちり。一生忘れない1枚になった。(記者コラム 写真部・岡野将大)
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