「南海トラフ巨大地震」はいったいいつ起こるのか…その具体的な予測の「数字」
---------- 今後30年以内に高い確率で発生が予測されている「南海トラフ巨大地震」。果たしてその実態はいかなるものなのだろうか。その巨大な災害はどのようなメカニズムで発生し、どのような被害をもたらすのだろうか。そして、われわれはその未来にどう備えればよいのか。防災・危機管理アドバイザーの山村武彦氏に解説してもらった。 ---------- 【マンガ】「南海トラフ巨大地震」が起きたら…そのとき目にする「ヤバすぎる惨状」
幅がある発生周期
ある領域で、同じアスペリティ(英語で物体表面の粗さを意味する言葉だが、地震学では普段固着しているプレート境界などの断層面上で、ある時急激にずれ動いて強い地震波を発出する領域のうち、周囲に比べて特にすべり量が大きい領域のことをこう呼んでいる)がほぼ一定の時間間隔ですべって地震を起こすと仮定したモデルを、固有地震モデルと呼び、地震調査研究推進本部における地震発生の長期評価など、南海トラフ巨大地震の発生確率の算定にも取り入れられている。さらに、南海トラフには生まれてから約3000万年の比較的若いフィリピン海プレートが沈み込んでおり、薄くかつ温度も高いため低角で沈み込み、プレート境界で固着も起こりやすく、震源域が陸地に近いので被害も大きくなりやすいと考えられている。 南海トラフ沿いでは、東海(主に静岡県沖)、東南海(主に愛知・三重県沖)、南海(主に四国沖)というセグメントごとに固有地震が発生する場合と、発生した固有地震によって他の固有地震が連動又は誘発され発生する場合がある。蓄積されたひずみ(エネルギー)が地震発生によって解放されると、その後その領域では、ひずみが蓄積されるまでの期間は平穏期が続くとされている。 つまり、南海トラフにおける海溝型地震は、繰り返し起こる「周期性」と、複数の固有地震の震源域で同時又は連続して起こる「連動性」が大きな特徴となっている。領域によって異なるが、プレートの移動速度がほぼ一定であるために地震発生には周期性があると考えられるが、過去の南海トラフ地震を見る限り、その周期には幅があり、次の南海トラフ巨大地震がいつ発生するか、明確にその時期が判明しているわけではない。 東海地震、東南海地震、南海地震というようなセグメントごとに発生する固有地震の数十年単位の周期を「大地震周期」という。それとは別に、宝永地震のように広範囲の震源域が動き、甚大な被害をもたらす数百年単位の超巨大地震周期を「スーパーサイクル」と呼ぶことがある。 例えば南海地震でいえば、安政南海地震(1854年)のあとに起きた昭和南海地震(1946年)までの92年の周期が大地震周期である。直近最後の南海トラフ地震(1946年)から、今年(2023年)で77年経過している。次の地震が大地震周期で起きるМ8級のものになるか、宝永地震(1707年)から316年間起きていないスーパーサイクルの南海トラフ巨大地震になるか、今はまだよくわかっていない。 しかし、それが大地震周期であろうと、スーパーサイクルであろうと、いったん大地震が起きれば、大揺れ、大津波、建物倒壊、火災、停電、断水、道路・交通機関・通信回線・物流などの混乱という、厳しい試練が待ち受けていることに変わりはない。想定や周期予測に一喜一憂せず、大地震がいつ起きてもいいように、減災対策と不断の準備が不可欠である。