BABYMETAL主催「FOX_FEST」考察 グルーヴ表現の広がりから見るメタルの多様性
5月25日(土)、26日(日)さいたまスーパーアリーナにて開催された BABYMETAL初主催フェス「FOX_FEST」。2日間を通して約3万人を動員したこのフェスについて、音楽ライター・s.h.i.に振り返ってもらった。 【写真を見る】BABYMETAL初主催フェス「FOX_FEST」 個々のアーティストの良さはもちろんのこと、フェス全体の流れまとまりの美しさが印象に残るイベントだった。優れたアルバムを評する際に「アルバム全体が1つの組曲のようだ」と言うことがあるが、今回のFOX_FESTもまさにそんな感じ。どの出演組にも突き抜けた親しみやすさがあり、それでいて異なる魅力もあるために、続けて観ることで各組の個性が互いを引き立てあい、双方に対する理解を深めてくれる。ラインナップ全体の相性の良さと、それを活かす並びの良さを兼ね備えたFOX_FESTは、完成度の高いコンピレーション作品のような居心地と出会いの楽しみを与えてくれる機会になっていた。ここまで音楽的な設計がうまくいっている大規模イベントもそうないのでは。本稿では、FOX_FESTのこうした持ち味について、メタルならではのグルーヴ表現の広がりという点から振り返っていきたい。 自分が参加したのは日曜日(2日目)で、全ての出演組が見事なパフォーマンスをしていたが、なかでも最も新鮮な驚きを与えてくれたのがMETALVERSEとASTERISMの共演だった。METALVERSE がSUMMER SONIC 2023に出演した際、バッキングを担当していたのは神バンド(西の神)で、そのメカニカルで抜けの良いサウンドを基準に考えると、ASTERISMは技術的には問題ないけれども80年代HR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル)的な質感が微妙に合わないのでは……と事前に思っていたところもあったのだが、蓋を開けてみれば結果はむしろ逆。そうした80年代HR/HM要素が楽曲の歌謡エッセンスに絶妙に合っていて、この手の音楽性でここまで完璧な相性を示す組み合わせは世界的にみても稀では、というくらいの手応えを感じさせてくれた。Official髭男dism「Cry Baby」のカバーも、めまぐるしいキーチェンジを前提とした歌メロを不思議な形で活かすリアレンジもあってか、80年代のメタルパンクを超プログレッシブにしたような異様な滋味が生まれていて凄かった(初日はLiSAの「紅蓮華」をカバー)。デスコア的な高速フレーズを弾いていてもHR/HM的なグルーヴが出せる、というのは本当に得難い持ち味。またこの編成でやってほしいと願うばかりだ。 生で観ることで得られる納得感という点では、続いて登場したビルムリも素晴らしかった。音楽語彙が豊かすぎることもあって掴みどころなく思える面もあるバンドだが、親しみやすく開放的なステージングとあわせて観ると、“メタルコアやハイパーポップを通過したメロディアス・ハードロック”みたいに捉えられることがよくわかる。それを引き立てているのがサウンドの風通しの良さで、ギターはヘヴィだがベースレスなので低域がこもらない、という編成がこれほど合う音楽性もなかなかない。クリーンな歌声も流麗なサックスもその点で絶妙で、輝かしいけれども陰もちゃんとある、暖かい寂しさが漂い続けるような雰囲気によく寄り添っていた。このようなサウンドは、一般的なメタルフェスでは“ちょっと新風を吹き込んでみるためのイレギュラー枠”的に呼ばれることはあっても現場では浮いてしまうことが多いのだが、FOX_FESTでは全く違和感なくはまっている。こうしたところにも、今回の座組のうまさが出ているのではないかと思う。