伝記映画というには悲しすぎる謎 「幸福の画家」ピエール・ボナールと妻マルトとの愛憎関係 映画「画家ボナール ピエールとマルト」
【大人のエンタメ】 20日公開「画家ボナール ピエールとマルト」 絵画に興味のある方なら、一度はピエール・ボナールの作品を見たことがあるだろう。20世紀絵画の巨匠のひとりであり、印象派の後を継いだナビ派の代表格で、2018年には、国立新美術館でオルセー美術館のコレクションを中心とした展覧会が開かれたことも記憶に新しい。 その画風から「幸福の画家」といわれたが、その人生は決して幸せとはいえなかった。日本の美術から強い影響を受けていて「日本かぶれのナビ」との陰口さえたたかれたほど日本びいきだったことも。 そのボナールを描いた仏映画「画家ボナール ピエールとマルト」（マルタン・プロヴォ監督）が20日、公開される。ただの伝記映画というには悲しすぎる謎がはめ込まれている。 核になるのは妻のマルトとの愛憎関係。画家は生涯2000点にも及ぶ作品で、最愛の妻をキャンバスに残した。幸福の画家の妻は幸せだったのか、その思いが明かされる映画でもある。 妻のマルトとの関係はモデルで美術学校の生徒だったルネの出現で複雑になっていくが、むしろピエール自身よりマルトの精神状態に問題があったといえるだろう。 ふたりの死後、ピエールがマルトにとらわれた被害者との風評があったが、近年ではむしろマルトが望んでピエールの犠牲になっていたと考えられている。その証拠に、彼女が病気になった後もピエールは彼女に寄り添い続けていた。どこまでもマルトは画家のミューズであり続けたのだ。 監督が目指したのは「普通の伝記映画や歴史の再構成とはほど遠いところにあり、逸話的ではないカップルの秘められた変容」だという。ぜひともその変容の理由をスクリーンで確認してほしい。 （望月苑巳）
