「履歴書の空白」をどう過ごした?◆キャリアブレイク経験者に聞く、無職の効用【時事ドットコム取材班】#令和に働く
一時的に離職や休職をして休息時間を取る「キャリアブレイク」という言葉を知ったきっかけは、友人の退職報告が相次いだことだった。30代の転職は珍しくないが、「次を決めずに辞めた」と聞き、驚いた。調べてみると、実は多くの人が次の職に就くまでに一定の離職期間を経験しており、「無職の時間」を前向きに受け止める人もいるという。彼らはなぜ離職し、離れている時間をどのように過ごしたのだろう。記者は興味を引かれ、取材を始めた。(時事ドットコム編集部 川村碧) 【ひと目で分かる】転職までの期間は? ◇社会のレール、外れたらだめ? 「一度立ち止まりたい」―。神奈川県に住む会社員女性(29)は、2022年3月、新卒から5年勤めた人材系企業を退職した。上司と合わず自己否定状態に陥ったことなどが理由で、「転職活動をしても今の環境から逃げるという基準でしか選べない。いったん休みたいと思って、何も決めずに辞めた」と話す。 貯金と失業給付でやりくりし、旅行や読書といった好きなことをして解放感を味わった。「人生で仕事をしていない期間があってもいいし、どこも人手不足なので無職期間があっても仕事は見つかるはずと考えていた」という。とはいえ不安がなかったわけではない。「学生時代も『いい子』で、新卒で上場企業に入って模範的な人生を歩んできたのに、会社を辞めて無職になるという大きな決断をした。社会のレールから外れた自分はもう元に戻れないかもと思うこともあった」と女性は打ち明ける。 一方、退職後にウェブスキルを学ぶため入会したキャリアスクールでは、さまざまな出会いがあった。「起業やフリーランスなど多様な働き方をしている人と話し、視野が広がった。前職では早く成長しなきゃと焦っていたが、当時は企業の中でしか通用しない価値観に縛られていた」と振り返る。 女性は約1年後に転職活動を始め、「人と人をつなぐ仕事がしたい」と、再び人材業界に戻った。自分と向き合った時間を経て、相手の気持ちを考え過ぎて自分はどうしたいのか決めるのが苦手という、思考の癖に気付いたそうだ。「会社の正解に合わせるのも大事だが、これからは自分で決めて行動していくという気持ちが生まれたのが大きな変化だと思う」と落ち着いた表情で話した。 ◇離れた時間が「自分の糧」に キャリアチェンジのために、約1年間の離職期間を設けた人もいる。大阪市で飲食店店長をしていた中尾一也さん(45)は、就業環境や仕事への適性について悩んでいた20年、コロナ禍に見舞われた。店は休業となり、「今が自分の働き方や家族の暮らしを変える機会なのではと感じた」と話す。妻の後押しもあって、関心のあった社会福祉士を目指そうと決心。妻の両親が住む神戸市に家族で移り、21年3月に退職した。 昼間は子どもの弁当作りや送り迎えをし、夜は専門学校で勉強する日々。保育士の妻が家計を支えた。「経済面の不安はあったが失業給付と妻の収入、前の家の売却益などもあり、乗り切れた」と振り返る。離職中は、PTA役員やボランティア活動に挑戦したほか、家族で過ごす時間も増え、幸せを感じたそうだ。 マイナス思考だった自分を見つめ直す1年でもあった。「うまくいったことも失敗もあったけれど、仕事以外の時間に経験したことが今の自分の糧になったと感じる。人と自分を比べなくなり、幸せの尺度は人によって違うと思えるようになった」と自身の変化を受け止めている。 2度目の試験で社会福祉士に合格し、現在は障害者相談支援センターで働いている中尾さん。「すべての人にキャリアブレイクを勧めるわけではない」と前置きした上で、「もし職場で自分が認められていないと感じているなら、いったん離れるという選択肢もある。人生の中で休んで考える時間があってもいいのではないか」と語った。