「履歴書の空白」をどう過ごした?◆キャリアブレイク経験者に聞く、無職の効用【時事ドットコム取材班】#令和に働く
◇「離職期間あり」は約7割
「次の仕事に就くまでに離職期間がある人は、実は約7割います」。そう話すのは離職者同士のつながりを支援する「キャリアブレイク研究所」(神戸市)の北野貴大代表だ。厚生労働省の「2020年転職者実態調査の概況」をみると、「離職期間なし」は26.1%で、1カ月未満~10カ月以上の期間があった人は69.1%に上る。転職先に移るまでの短期の休みと考えられる「1カ月未満」を除くと41.5%だった。 北野代表が離職した500人以上に話を聞くと、「病気や家族の事情、働くことへの違和感など理由は十人十色」だったが、一時的な離職を人生の充電期間として前向きに捉え、次に進む足掛かりにしようとする人も多いことが見えてきた。「収入が止まり、社会的なコミュニティーから離れることで、多くの人が孤立する。キャリアブレイクを人生の良い転機にしようとしている同じ境遇の仲間と出会える場が必要」と考え、休職者や離職者が学んだり、対話したりできる「むしょく大学」や「無職酒場」といった場も提供している。 北野代表は、キャリアブレイクという選択肢が広まることでもたらされる効果にも注目する。「就職活動で頑張っても内定がもらえなかったり、会社で上司と合わなかったり、人生でうまくいかないことはたくさんある。そのときどきの転機を受け止めるか、引きこもって立ち直れなくなってしまうかでは大きな差がある。一時的に離れるという選択肢を当たり前にすることで、救われる人もいると思う」と語った。 ◇「空白」ではなくライフキャリアの一部 日本の労働環境が変わりゆく中、キャリアブレイクは今後の働き方にどのような影響を与えるのだろうか。キャリア形成に詳しい法政大大学院政策創造研究科の石山恒貴教授によると、日本では戦後、企業が長期的に雇用を保障する代わりに、正社員は転勤や残業を受け入れて働く雇用システムが形成されたという。企業はこの仕組みに従う社員を評価・昇進させるため、いったん離職し「キャリアの空白」ができると、再び正社員として同じ雇用環境に戻ることが難しくなる。 売り手市場の現在も、日本企業にこうした構造は根強く残るが、石山教授は「仕事の経歴を示す『ワークキャリア』は、家庭や地域活動、趣味といった人生経験の蓄積である『ライフキャリア』の一部にすぎない。仕事を休んでいた期間は空白ではなく、そこで得た経験が人生や仕事に生きるはずだ」と説く。 企業で働く人の中にも、「長年同じ会社で働いてもスキルが積み上がらない」との悩みに加え、特にゆとり教育やキャリア教育を受けた世代を中心に「自分の生き方や個性を大事にしたい」と考える傾向もある。石山教授は「働き方改革や副業の解禁によって柔軟な働き方が推進されていることを考えると、キャリアブレイクを当たり前と受け止める社会になっていくべきだ。しかし、昔からある雇用システムが生んだ、休むことが許されないという規範意識と、新しい価値観の衝突が起きている」と現状を分析する。 石山教授によると、メンタル不調や職場環境の問題に疲れ果て、やむを得ず離職を選んだ人でも、休息を取るうちにエネルギーが戻ってくることもあるという。「仕事を手放したからこそ自分を見つめ直し、自分らしい在り方は何か考えることができる。このように仕事以外の経験を積み、重層的に物事を考えられるようになった人材は、企業にとっても魅力的だし、雇用形態にこだわらず(起業やフリーランスなどで)新しい活動を始める可能性も秘めている」と語った。 ◇取材を終えて 「心を取り戻した」「ゆとりができた」。キャリアブレイク経験者の話で印象に残った言葉だ。記者が気付いたのは、仕事や生き方に悩みを抱える当事者が一時的に仕事から離れ、普段はできない体験をすることで、自分の心身を回復させていく効用があるということ。人生100年時代では、途中で立ち止まったり、歩んできた道を振り返ったりする時間は無駄ではなく、次の一歩を踏み出す力に変わるのかもしれない。取材を終え、そんなことを考えた。 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。