『きのう何食べた?』“アラフィフ”だからこそ誕生日を喜びに シロさんの言葉が心に染みる
人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた? season2』(テレビ東京系)。第7話では、西島秀俊演じる筧史朗(以下、シロさん)が歳を重ねたことを実感する。 【写真】老眼鏡に感動するシロさん(西島秀俊) その実感の一つは老眼だ。近頃明らかに老眼の仕草をするシロさんに、小山志乃(中村ゆりか)が100円ショップの老眼鏡を贈った。頑なに受け取ろうとしないシロさんに、美江(高泉淳子)は「素直にお認めなさい」と一蹴し、修(チャンカワイ)は「受け入れた方が楽だよ」と諭す。渋々老眼鏡をかけたシロさんが、驚くほど視界が開けたことに目を見開いて「すっごくよく見えます」と言葉を漏らすさまは面白い。 老眼鏡の利便性を感じたシロさんは、内野聖陽演じる矢吹賢二(以下、ケンジ)から誕生日プレゼントの希望を聞かれると、お茶をすすりながら「老眼鏡」と答えた。現実的で合理的な考えをもつシロさんらしい受け答えに可笑しみが感じられる。 シロさんとケンジは2人で老眼鏡を選ぶが、ケンジが想像していたよりも高価だった。シロさんはしみじみと感じ入るようにこう言った。 「歳取ってくると、色々普通のものじゃ間に合わなくなるんだよ。どうしても金がかかる」 倹約家なシロさんらしい台詞であり、歳を取ることで生じる体や心の変化について身に沁みる台詞でもある。 シロさんと老眼鏡のくだりはコミカルに描かれるが、もう一方の歳を重ねたことへの実感は切ないものだった。シロさんのもとに、大学の同級生・金森が亡くなったという知らせが届く。気落ちした様子で「ついに同級生が不慮の事故とかじゃなくて、病気で死ぬ歳になってきたよ」と呟くシロさんだが、シロさんもケンジも亡くなった同級生の早すぎる死を悼む。 “アラフィフ”は、亡くなるにはまだ早い年齢に思えるが、順当に歳を重ねた実感を与えるものでもある。シロさんは告別式で、自身が思う年齢とのギャップを感じる。金森は3人の子どもを残して亡くなったが、子どもたちが全員20代後半であることを知ったシロさんはあっけに取られていた。“アラフィフ”はまだ若い年齢でもあるが、人によっては子供がいたり、すでに孫がいたりするものだ。参列した他の同級生たちも自分の子供の結婚話を口にしていて、シロさんは思わず無言になった。 金森の妻・諒子(相築あきこ)を通じて、シロさんは金森が長い間闘病していたことを知る。諒子はシロさんに、病状が悪化した最後の2カ月までは元気だったこと、その2カ月のおかげで心の整理ができたことを打ち明けた。それでも諒子の表情は寂しげだ。彼女が言った言葉が心に響く。 「あと20年くらいは一緒にいられると思ってたから」 大切な人と過ごす時間があとどれくらい残っているのかなど誰にも予期できない。別れを前に気持ちが整理できたとしても、悔やまれる思いがないとは言い難いものだ。第5話でケンジと過ごす日々に、あらためて心の底から幸せを感じたシロさんだからこそ、諒子の言葉は痛切に感じられたことだろう。 シロさんは帰宅後、ケンジと一緒に誕生日を祝いたいと提案する。“アラフィフ”の仲間入りをしたくないがためにケンジは誕生日を嫌がるが、シロさんは訴えかける。 「パートナーが、大きな病気もケガもなく無事ひとつ歳を取ったんだよ。めでたいことの何が悪い」 変化を受け入れることは時として怖く感じられる。歳を取ることがめでたく感じられない気持ちもわかる。けれど、シロさんが言うように、病気もケガもなく1年を過ごしたことは祝うべき、喜ばしい出来事だ。ケンジはシロさんの気持ちを汲んだ。2人はささやかだけれど幸せな誕生会を開き、お互いの誕生日を祝った。 第7話は序盤に描かれた老眼鏡のくだりと同じく、思わずふっと笑ってしまうような演出で終わる。小日向(山本耕史)と航(磯村勇斗)から贈られたお祝いの花には「50」という派手なバルーンがついていた。ケンジがシロさんの年齢をうっかり航に漏らしたのだ。中盤で描かれた、誕生日を祝われたくないとごねるケンジとシロさんの口論も、言いたいことを素直に言い合える仲に愛おしさを覚えたが、「やっぱ結構気にしてんじゃん」「なんかわかんないけど、50はショックなんだよ、50は」とクッションを投げ合う2人のやりとりもまた微笑ましい。 スーパーアキヨシでは、スーパーのお姉さん(唯野未歩子)に「お似合いですよ」と言われ、シロさんが老眼鏡をかけ直すのを見て、ケンジが途端にやきもちを焼いていた。老眼鏡をかけ、セールに心を高鳴らせる“アラフィフ”の姿は一風変わっているが、とてもシロさんらしい。すぐに感情が表に出るケンジの素直さも、いくつになっても変わらないだろう。 2人の何気ない日常が、歳を取っても変わらないものを教えてくれた、そんな幕引きとなった。
片山香帆