「あの打ち方をできるのは、投手だから」 大谷翔平の異色のバッティングの秘密とは? 10代の頃の大谷に相談を受けた専門家が解説
「決していい動きとはいえないが……」
その理由としては、 「今年はバックスイングから打ちにいく瞬間、軸足(左打者では左足)の膝が投手とは反対側にやや動いています。これは本来、力が分散してスイングに無駄が生じかねず、決していい動きとはいえないのですが、一方でバット自体を深く引き込むことができ、軸足が動くことでゆとりが生まれ、体全体が回りやすくなるという利点もあるのです」 この軸足の動きが大きくなると、投手に背中を向ける格好になってしまい、 「体重移動が遅れ、スイング時にうまく前に体重を伝えられないままボールの上っ面をたたき、トップスピンがかかってゴロが増えます。反対に体重移動がうまくいけば、バットが最下点から上がっていくところでボールの下部を捉えやすくなり、バックスピンがかかった状態でホームランが増えていくのです」
「この打ち方ができるのは、投手だから」
そうした大谷の打撃を支える最大の特徴は、 「インパクトの瞬間、両肩と両肘、そしてグリップの5点を結ぶ『奇麗な五角形』ができる点です」 そう明言するのだ。 「打者には2種類あり、一つは前腕(左打者では右腕)を伸ばしたまま、体の回転に合わせてスイングするスタイル。これは回転力をバットに伝えやすい半面、バットが前に出にくくなり、結果的にポイントより後ろでボールを捉えてしまいがちです。もう一つは、大谷選手のように前腕の肘を曲げたままインパクトを迎える形。ちょうど両手で抱えたゆりかごを左右に揺らすような動きで、さらにその先でバットを走らせるという『二重振り子』で、バットが加速していくわけです」 不必要に力むことなく、クッションのようなゆとりを保ちながらスイングができるというのだ。そして、 「この打ち方ができるのは、彼が投手でもあり、胸郭と肩甲骨が柔軟だからだと考えられます」
陸上選手のような走り方を体得
川村教授はそう指摘しながら、 「打者は通常、体全体の質量を高めたほうがパワーも生まれるので、胸筋も強化しようと考えます。一方で投手は、胸や背中の筋肉を硬くしすぎると腕がしならなくなるため、肩甲骨が滑らかに動き、それに合わせてついてくる腕の動きを妨げないよう胸郭にも柔軟性があることが望ましい。打撃においても、ミート後にボールをバットに乗せて押し込む際、肩甲骨が広く動いたほうがよいのです。大谷選手のインパクト時の『五角形』は、投手でもある彼が柔軟性を保ちながら肉体改造してきた証しだといえます」 その「肩甲骨」は、実は走塁においてもポイントに挙げられるという。 「大谷選手は盗塁の時、少し前足(右足)を引き、進行方向とは反対に動かしてからスタートします。前足を引くことで体は前方に倒れ、その作用でうまく角度を作り、前傾したまま左足で蹴り出す力を増幅させて推進力が生まれる。実に効率的です。また走る時に肩甲骨を使うことで腕が横に振れ、体幹がブレて力が分散してしまう選手が多い中、彼は今春のトレーニングの時から、肩甲骨を使わないことで体幹がブレずに進む、陸上選手のような走り方を体得していました」 野球評論家の高木豊氏も、 「私の現役時代も、盗塁の時には上体がブレないこと、つまり構えた位置から上体を動かさずにスタートすることを心がけてきましたが、大柄でストライドが長いにもかかわらず、俊敏な動作もこなせる大谷は別格だと思います。また日本に比べてMLBの投手は、投球間隔に間合いを取らず、一定のリズムで投げたがる傾向がありますが、彼はそんなリズムを盗む能力にも長けていますね」 そう感嘆するのだ。