コロナ禍の台湾でなぜイノベーションが起きたのか…その背景にあった驚きの国家体制とは?
コロナ禍において国民全員にマスクを配布するシステムをわずか3日で構築し、世界のグローバル思想家100人にも選出された若き天才オードリー・タン。自身もトランスジェンダーであるタン氏が、日本の若者に向けて格差やジェンダー、労働の問題からの「解放」をわかりやすく語る『自由への手紙』(オードリー・タン著)より抜粋してお届けする。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『自由への手紙』連載第35回 『わずか30年で多様性国家へ大変身…あらゆる人々との「共存」を目指す台湾の“ある合意”』より続く
理想とお金をセットで考える
私は、ラボにやってくるソーシャルイノベーターたちと、日々いろいろな話をしていますが、彼らにはこんなアドバイスをしています。 「あなたたちソーシャルイノベーターが、新しいアイデアを大企業にもちかけるのであれば、CSRの部署ではなく、事業開発の部署を訪ねたほうがいいですよ」 ラボが「ありそうでないパートナーシップ」に賞を授与するのも、NPOなどのソーシャルイノベーターと、民間企業の新規事業開発部門のようなコラボレーションが成功したケースがほとんどです。 ソーシャルイノベーションから生まれる新しい着想を注ぎ込み、組織のブランドを再構築するのはその部署だからです。 企業の社会的責任を担うCSRは、環境問題や企業倫理についての専門部署とされ、一見すると、ソーシャルイノベーターと相性が良さそうに思われます。 しかし、現実として企業におけるCSRはかなり限られたリソースしかもち合わせておらず、いかなる理想も実現させなければイノベーションは起きません。「ありそうでないパートナーシップの成立」とはならないのです。 ・社会のイノベーション ・産業のイノベーション このふたつは両翼であり、いずれか一方だけでは、バランスがとれません。
ソーシャルイノベーションに必要な視点
私自身も、新しいソーシャルイノベーションのアイデアがあれば、それが産業界に適用可能かどうか確認することに重点を置いています。 たとえば、マスク在庫管理アプリや大気汚染レベルの測定装置をつくるときも、その視点をもっていました。 イノベーションを考える際には、国内産業の利用を重視することは当然でしょう。 ブロックチェーンを用いればデータの共有が容易なので、行列に並ぶ人の数でマスク在庫を常時、増やすことができます。これらはすべて、地域の経済問題や環境問題に配慮するために内向きになった社会的イノベーションから生まれた発想です。 このようなコミュニティ中心政策から生まれるのは、やはり「思考はグローバルに、行動はローカルに」という発想です。
語り)オードリー・タン