習い事にレジャー…低所得家庭の子ども約3人に1人が「体験ゼロ」、年収別で2.6倍以上の差も…日本初の全国調査で判明した体験をあきらめさせる壁
休日の提供者
次に、「休日」の体験の「提供者」については、(1)民間事業者、(2)地域や保護者のボランティア、(3)自治体・公的機関、(4)プライベート(家族や友人同士)、という4つの選択肢を提示した。 そのうえで、「自然体験」、「社会体験」、「文化的体験」の領域ごとに年間の平均支出額を見ると、「放課後」の体験と同じく、いずれも「民間事業者」で高くなっている(グラフ6)。 「民間事業者」の次に費用が高くなっているのが、家族や友人との様々な場所へのお出かけや旅行などが含まれる「プライベート」だ。家庭ごとの経済力の格差が出やすい領域だと言えるだろう。 それらに比べ、「ボランティア」や「自治体・公的機関」が提供する「休日」の体験は相対的に安くなっている。それらの中には無料で参加できるものもあるが、一定の参加費、また交通費や食材費といった実費がかかる場合もある。 こうした体験の「提供者」ごとの支出額の違いから想像できることは、それぞれの保護者たちは自らの経済力に応じて、自分の子どもがどんな「体験」の場に参加するか(できるか)を判断しているだろうということだ。 単純化して言えば、低所得家庭の子どもは、地域のボランティアや自治体が提供する無料および安価な「体験」の場には参加しやすいが、企業などが提供するそれには参加しづらい、そんな状況があるのではないか。
体験をあきらめさせるもの
調査では、過去1年間に子どもに何らかの「体験」をさせてあげられなかった経験があると答えた保護者に対して、そうせざるを得なかった理由についても聞いている(複数回答)。 グラフ7は、その回答を世帯年収300万円未満の家庭に絞って集計したものだが、そのうち最も多いのは「経済的理由」で56.3%だった。 補足すると、昨今の物価高騰による子どもの「体験」機会への影響は低所得家庭でより強く出ており、世帯年収300万円未満の家庭ではおよそ半数にまで及ぶ(物価高騰の影響で子どもの「体験」の機会が「減った」と「今後減る可能性がある」との回答の合計)。 これまで見てきた通り、低所得家庭の子どもたちの「体験」にとって、「お金」が最大の壁であることはやはり間違いがない。だが、別の壁もある。 再びグラフ7に戻ると、保護者の回答で次に多かったのが、送迎や付き添いなどの「時間的理由」だ。こちらも51.5%と半数を超えている。そして、そのあとに「近くにない」(26.6%)、「保護者の精神的・体力的理由」(20.7%)、「情報がない」(14.3%)、「理由はない」(6.8%)といった回答が続く。 「時間的理由」が「経済的理由」に匹敵する割合となっていることは重要だ。共働きの家庭はもちろんのこと、ひとり親家庭で習い事への送り迎えや付き添いなどがより困難であることは想像に難くない。 しかも、子どもが小学生の場合(今回の調査の対象)、中高生などほかの年齢層に比べてそうした負担が大きくなるため、子どもたちが「体験」の機会からより遠ざけられやすい。 例えば、もしどこか別の出費を切り詰め、子どもの「体験」にかかる月謝を何とか捻出できたとしても、定期的に送り迎えをする時間はとれない、といった状況だ。 夏に海のキャンプに参加したいと言っていたけど、経済的にも私の体力的にも厳しかった。(大阪府/小学4年生保護者) スポ少(スポーツ少年団)でサッカーをやりたがっていたが、私がフルタイムで仕事をしているので当番などができないと思い断念した。(福島県/小学5年生保護者) いずれも、今回の調査で寄せられた、世帯年収300万円未満の保護者からの声だ。子どもたちがやってみたい「体験」をさせてあげられない。そこには、親たちを取り巻く複合的な障壁が存在する。その中心に「お金」の問題があり、ほかの要因とも深く絡み合っている。 文/今井悠介 写真/shutterstock
---------- 今井悠介(いまい ゆうすけ) 1986年生まれ。兵庫県出身。小学生のときに阪神・淡路大震災を経験。学生時代、NPO法人ブレーンヒューマニティーで不登校の子どもの支援や体験活動に携わる。公文教育研究会を経て、東日本大震災を契機に2011年チャンス・フォー・チルドレン設立。6000人以上の生活困窮家庭の子どもの学びを支援。2021年より体験格差解消を目指し「子どもの体験奨学金事業」を立ち上げ、全国展開。本書が初の単著となる。 ----------
今井悠介