【ラグリパWest】チームドクター。中井秀和[第二大阪警察病院/整形外科医]
年を重ねる。 若い人たちと触れ合う。 違う世界観が押し寄せる。あふれるパワーが自分をも包み込む。力をもらう。 それは愉悦である。 中井秀和は今、その中にいる。 「学生から刺激をもらっています。そして、学ぶことが多い。楽しいですね」 中井は不惑をふたつ超えた。摂南大でラグビー部のチームドクターをしている。 この仕事の中心は試合時のチーム帯同だ。それはほぼ週末にある。休日をつぶすことになる。代診を入れれば稼げる。そこには目もくれない。ラグビーの自己犠牲の精神がある。中井自身も経験者である。 選手が倒れれば、瞬時に全力でグラウンドを走り、処置や判断を行う。担当協会が手配するマッチドクターはいるが、彼らよりチームや選手との関りは深い。初見ではない。 ケガの見極めは難しい。 「プレー続行か、そうすれば障害が残る可能性があるのかを判断しないといけません」 迅速と的確が要求される。前後半80分の試合で一瞬も気を抜くことはできない。受傷の瞬間もその判断の材料になるからだ。 摂南大のチームドクターになったのは2022年の秋だった。中井は整形外科医。専門はヒジと肩である。 「2シーズン目が終わったところですね」 白くつるっとした顔が緩む。柔らかい視線は患者の緊張を解きほぐす。 中井が来てからの摂南大は関西Aリーグで連続7位。入替戦に出たが、昨年は2つの白星と1つの引き分けがあった。フレンチ・バーバリアンズの青を基調にしたジャージーを模倣するこのチームには良化の兆しがある。 摂南大にはすでにチームドクターがいる。開業医である髙英卓(こう・えいたく)だ。中井にとっては関西医大の先輩になる。髙は還暦を超えていることもあり、その後任を探していた。髙と重なることはチームをより深く知る上でも大きい。 その間を取り持ったのは田中誠人(まこと)である。中井より10歳上の同じ整形外科医。専門は肩。7人制女子日本代表や近大、御所実のチームドクターも兼務する。 2人の勤務先は同じ第二大阪警察病院。JR環状線の桃谷駅に近い。中井は4月になれば、赴任して4年目に入る。 「田中先生に呼んでもらいました。外山先生の後輩ということもあったと思います」 外山幸正は髙や中井と同様、関西医大の出身である。外山は関西ラグビー協会の前の医務委員長だった。精力的に大阪を含め傘下2府20県の協会の医務を束ねた。 田中は中井のラグビーにより近い現場への異動願望を知っていた。外山には手ほどきを受けたこともある。希望や恩返しを混ぜ込みながら、よき形にもってゆく。田中は現在、大阪府ラグビー協会の医務委員長でもある。中井は副委員長をつとめている。 中井の医師としてのキャリアは2009年に始まった。岡山の倉敷中央病院である。 「病院単体で唯一、ラグビーチームを持っていました」 1200床ほどある大病院だった。専門を持たない初期研修2年を含め、6年在籍した。 そのあと、岡山から大阪に移る。羽曳野(はびきの)にあるしまだ病院に入った。 「この病院はスポーツに特化していました」 ここでも6年を過ごした。そして、第二大阪警察病院に勤務先を変えた。 この3病院の移動で中井の評価がわかる。病院には基本的に学閥がある。倉敷中央は京大、しまだは大阪市大(現・大阪公立大)、第二大阪警察は大阪大である。中井には関係がない。にもかかわらず、引っ張ってもらえるのは、基本的な腕の確かさを示している。 処置の素早さは日常に出る。会食時に同席者が食べこぼしをする。中井は素早くシャツの内外に水を浸したおしぼりを当て、そのシミを即座にとってしまう。 「祖父がクリーニング会社をやっていました」 照れ笑いを浮かべるが、その動きからは日々の医業も容易に想像できる。 中井の出身は三重県。6歳から競技を始めた。志摩ラグビースクールだった。 「谷崎先生と母が小中の同級生でした」 谷崎重幸は新潟食料農業大の監督。東福岡では冬の全国大会優勝を7回とする強豪に仕立て上げた。出身高校は志摩。中井にとってラグビーは近い存在だった。 ラグビーは小6で一旦終える。中高はソフトテニス。関西医大には一浪して入った。 「やりがいもあり、母の希望でもありました」 部活として再び楕円球を手にした。174センチ、82キロのCTBだった。医学部生にとって大学選手権にあたる西医体(西日本医科学生総合体育大会)は8強が最高である。 ラグビーを再開した理由を語る。 「メンバーが面白かった。学生生活をエンジョイできると思いました」 ラグビー以外にも青春を謳歌した。小声でパチンコや麻雀のことも話した。本分の勉強にも熱中したため、6年のところを8年通った。怠惰な学生の気持ちもわかる。 今年はもっと摂南大に通いたい。 「夏合宿にも顔を出したいですね。今までは春季大会と秋のリーグ戦が主だったので」 学生と接するよろこび、チームの進歩も見てとれ、前のめりになっている。 将来的に目指すところはある。 「代表チームにつけたらいいですね」 兄貴分の田中に続き、高みに届きたい。そのためにも学生の中に入ってゆく。その経験を加えながら、日々、診察室を訪れる患者の悩みを取り去り、希望を与え続けてゆく。 (文:鎮 勝也)