「父と同じ、医師になりたい」夢は破れたが…「歯学部」で気づいた「人を幸せにする」楽しさ
「食べることは幸せ」
臨床実習では、歯科医師の指導のもと、実際の治療にも携わっています。 「臨床実習は、見学から始まって、次に問診や歯みがき指導などを担当します。夏からは根管治療(歯の神経の治療)を担当していて、3年次に学んだ歯内療法学という授業が役立っています。ただ、教科書通りにはいかないことも多く、治療に時間がかかってしまうこともあります」 臨床能力を評価する試験では、実際の患者さんのブリッジ用の仮歯をつくるということもありました。仮歯そのものは歯科技工士がつくりますが、歯科医師はそれを患者さんの口の中に合わせて微調整していきます。 「ベテランの歯科医師であれば1時間程度で終わる作業が、私は1時間半くらいかかってしまいました。それでも完成したときには、患者さんから感謝の言葉をかけられて、うれしかったです」 勉強や実習が大変な分、同級生との絆は強くなっています。 「私は同級生よりも少し年上なので、低学年のころはジェネレーションギャップを感じることもあって(笑)。グループでディスカッションをする授業では、みんなが私の意見に賛同するだけのこともありましたが、みんなの意見も聞きたいということを伝えて、だんだんと話し合えるようになっていきました。今は励まし合ったり、切磋琢磨したりできる関係です」 片岡さんは現在、「医師になることへの未練は全くない」と言います。「自分が治療することで、患者さんに幸せになってもらいたい」という思いは、同じだからです。 目指しているのは補綴(ほてつ)治療という失った歯を義歯(入れ歯)など人工物で補う治療を専門とする歯科医師になることです。 「祖母が生前に要介護で在宅医療を受けていて、晩年は話すことも難しかったのですが、家族で食事をするときはすごく幸せそうでした。訪問歯科医師の先生が、義歯を調整してくださったり、食べ物の形状についてアドバイスしてくださったりしたからこそ、最後まで口から食べられたと感謝しています。食べることは人間の幸せの一つ。患者さんの背景を考慮し、一人ひとりに合わせた補綴物をつくれるような歯科医師になりたいです」