「去年はなかった悩みに出会えたことが成長の証だと思う」──2023 「FUTURE MOTY」受賞、木戸大聖の一年
近い将来に「GQ MEN OF THE YEAR」に登場することが期待される若き才能たちに贈られるアワードである「FUTURE MOTY」。2023年にその「FUTURE MOTY」を受賞した木戸大聖に、受賞から約1年を迎えた2024年11月にインタビュー。今年を振り返り、また来年以降の展望について語ってもらった。 【写真を見る】グッチのスーツに身を包んだ木戸大聖をチェック
木戸大聖の2024年
写真撮影を終えてインタビューに答えはじめた木戸大聖の声は、人の心のざわめきを鎮めるかのような穏やかさだった。その優しい声は、今年公開されたアニメーション映画『きみの色』で、彼が演じた影平ルイをまさに彷彿とさせる。やがてわたしたちは、この声が彼にとってはコンプレックスだったと聞いて驚くことになるのだが、それは数分後のこと。木戸大聖が振り返る2024年と、彼が2025年に目指すものとは。 ──「FUTURE MOTY」を受賞されてから1年が経ちましたが、この1年を振り返ってみて、自分はどのように変わったと思われますか。 3歩進んで2歩下がってではないですが、ちょっとずつちょっとずつ進んでいるなという感覚はあります。それはたぶん、新しい経験ができたり、新しい自分を発見できたりということだと思うのですが、そうした経験が現在の自分にどのくらい生きているかというのは、まだあまり実感がないです。 ──この1年間に木戸さんが撮影していた作品と、わたしたちが見ることができた作品とはたぶんずれているわけですが、後者を挙げていくと、「FURTURE MOTY」の受賞が発表されたころに放送されていたのが連ドラ『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日)。そのあと『忍びの家 House of Ninjas』(Netflix)が配信開始され、スペシャルドラマで『高額当選しちゃいました』(フジテレビ)と『万博の太陽』(テレビ朝日)があり、連ドラ『9ボーダー』(TBS)と『海のはじまり』(フジテレビ)、そして、声の出演をされたアニメーション映画『きみの色』がありました。 そうやって挙げていただくと、やっぱり濃い1年でしたね(笑)。怒涛の1年だったなと思います。『ゆりあ先生』は、連ドラでがっつりレギュラー出演した最初の作品でした。『First Love 初恋』(2022、Netflix)以来で、テレビドラマでは初めてです。想像以上の反響があって、なんだか不思議な感じがしました。あのドラマに対しては、いまでも反響をいただくんです。ほとんどのシーンは菅野(美穂)さんとのふたり芝居でしたが、他のキャストのみなさんとも刺激的で楽しかったのを覚えています。 ──『ゆりあ先生』での役はとてもいい役でしたね。最近出演されたテレビドラマでは、作品の評価の高さという点でも、『海のはじまり』が印象に残っている人が多いのではないかと思います。 『海のはじまり』は、ひとつひとつのカットに、チーム一丸でこだわりつづける現場でした。主演の(目黒)蓮くんをはじめ、演出の風間(大樹)さんと、全員がカットごとに話し合って、まるで映画を撮っているかのようでした。重い展開もあるなかで、僕が演じたのは、出てきただけで見ている人がほっとひと息つけるようなキャラクターでした。太陽のような、といいますか。そういう役割を明確に意識しながらトライした作品だったので、その思いがちゃんと届いて、反響としていただけたのもうれしかったです。 ■声の演技 ──『ゆりあ先生』の役もそうでしたが、木戸さんは奥行きのある、陰影のある明るさみたいなものを表現するのがすごくお上手ですよね。『海のはじまり』のスピンオフドラマ、『兄とのはじまり』での、表情のあるナレーションも素敵でした。 そうですか? すごくうれしいです。もともと僕は声がコンプレックスだったんです。自分の声があまり好きじゃなくて。そのあとの『きみの色』にもつながることですが、声を褒められたり、声優のお仕事をさせていただけて。やっぱりいい1年でしたね(笑)。 ──『きみの色』の話が出たのでそちらに移りますと、声だけの演技はすごく難しいと、俳優さんはみなさんおっしゃいますよね。 難しいですね。僕らはからだ全体、手足も顔も使って表現を成立させるので、それを全部抑制されて声だけでということになると、非常に難しい。普通にやってしまうと、アニメに自分の声が重なったとき、こんなにも足りないものかという感じになってしまうんです。エネルギー量を全部声に集約しなければいけない。普段の芝居にはないアプローチでした。 途中から、というよりもう序盤ぐらいから、声に100パーセントを注ぎ込まず、95ぐらいにしよう、残りの5パーセントは動きに回そうと決めました。音に入らない程度にちょっとだけ動く。飛び跳ねるシーンでは、上半身だけちょっと跳ねるように動かしてみたり、からだの反応を少しでも使えるところは使うという感じでした。それが映像や舞台をやってきた自分のやり方なんだと、割り切ってやっていました。 ■2025年に向けて ──そのおかげで声に気持ちが乗った部分は絶対あったでしょうね。それも木戸さんの今年の新しい経験だったと思いますが、2025年はどんな年にしたいですか。 いまこうやって話していて、やっぱりすごく濃い1年だったと思えたわけですから、2025年も振り返ったとき、濃かったなって思える1年にしたいです。まだ出会っていない役と出会うことで、新しい壁にぶつかったり、新しい喜びがあったり、発見があったりする。それってすごく役者として必要なことだと思うんです。いただいたそれぞれの役と真摯に向き合って、追求していきたいなと思っています。 ──来年は、2月にさっそく、中原中也を演じた映画『ゆきてかへらぬ』が公開されます。この作品への反響も楽しみですね。 ほんとうに楽しみです。撮影時期から時間が経っていて、自分で見ても自分じゃない感じがするんですが、みなさんにもきっと、新しい僕をこの作品で観ていただけるんじゃないかと思います。みなさんが持っている僕のイメージを超えられたら、変えられたらと思っています。これからも、自分のイメージを広げられるような役をやっていけたらいいですね。木戸大聖がやったらどうなるんだろうっていう役をやっていきたいです。 スーツ¥748,000、スカーフ¥106,700 by GUCCI(グッチ クライアントサービス Tel:0120-99-2177) 木戸大聖 1996年生まれ、福岡県出身。2017年、ドラマ『僕たちがやりました』で俳優デビューし、2018年からはNHK BSプレミアム『おとうさんといっしょ』に3年間レギュラー出演。その後、映画や舞台などで幅広い活動を続けるなか、2022年に配信が開始されたNetflixオリジナルシリーズ『First Love 初恋』で、佐藤健が演じる並木晴道の若き頃を演じ、注目を集める。2023年は『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日)、『忍びの家 House of Ninjas』(Netflix)、『高額当選しちゃいました』(フジテレビ)、『万博の太陽』(テレビ朝日)、連続ドラマ『9ボーダー』(TBS)と『海のはじまり』(フジテレビ)に出演。アニメーション映画『きみの色』では声優デビューをした。2025年2月21日に公開される根岸吉太郎監督の映画『ゆきてかへらぬ』では、中原中也を演じている。 著者プロフィール:篠儀直子(しのぎ なおこ) 翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』(以上青土社)『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(DU BOOKS)『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社)『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』(青土社)など。 写真・内田裕介 スタイリスト・佐々木悠介 ヘアメイク・石邑麻由 取材と文・篠儀直子 編集・遠藤加奈(GQ)