「権利は使わなければ輝かない」ブラック企業から自分を守る手段
会社と交渉する決断は「低くないハードル」だが
個人レベルの交渉に限らず、組合が入っての団体交渉についても個人と同様、決断のハードルは低くはない。 かつて東京都内の菓子店に勤めていた河合誠一さん(39)=仮名=は、パワハラなどに絡んだ団交申し入れ前の不安だった日々が今も忘れられない。 「あなたには残業代は出さない」――。こうした上司からの個人的なパワハラに悩んだ河合さんは社内に労組がなかったため、友人の紹介で外部の労働組合に相談する。会社の現状を説明する中で、パワハラに加えて全社的に未払い残業が野放しになっていること、有給休暇の付与日数に問題があることも分かった。 だが相談した労組が団交を申し入れたら、自分の行動が公然化して会社に居づらくなってしまう。迷った末、「やはり労組には加入せず、団体交渉もやめてもらおう」と決めた時にはすでに労組から団交要求書が会社に郵送されていた。 不安や懸念は杞憂に過ぎなかった。団交の結果、パワハラもなくなり、有給休暇などについても改善が図られた。河合さんは「『労働条件が悪い職場なら辞めればいい』という人がいるかもしれないが、自分が悪くないのに辞める必要はない。自分の権利は、自分が行動を起こさなければ勝ち取れないことを実感しました」と振り返る。 自らも不法な就労環境での勤務経験を持つ首都圏青年ユニオンの山田事務局長は言う。 「職業を通して生きがいや夢を抱く人が多い中、働くことで不幸になる社会はおかしいし、みんなが声を上げなければいけない。権利というのは持っているだけでは輝かず、使ってこそ初めて価値が生まれるもの。労働者の権利はいま一人で使おうとしても困難な状態ですが、泣き寝入りか職場を去るかの二択ではなく、組織の改善という私たち労組ならではの役割を新たな選択肢に加えていただきたい」 (フリー記者・本間誠也)