【米国社会に起きた多様性からの揺り戻し】トランプが与えた差別的言辞の“お墨付き”、ハリス敗北の要因
激した乱暴な黒人女性がラケットを折り、審判に暴言を吐いたという図である。そもそも女性蔑視の風潮が強い中、21世紀の今日でもいまだに黒人女性には更に強い差別が存在しているのである。
オバマ元大統領が与えた衝撃
では、今回のハリスの敗北はそのようなミソジノワールによるものだろうか。確かに影響はあっただろう。 女性を大統領にさせたくない、黒人を大統領にさせたくない、アジア系などなおさらだという考えの人は多い。しかし、トランプに対する嫌悪が強いというのは広くメディアが報じていることであり、にもかかわらずトランプがあそこまで差をつけて勝利したということは、ハリスの敗因はミソジノワールのせいとばかりは言えないのではないだろうか。 これまでトランプは米国を破壊した存在として批判されることが多い。トランプのようなこれまでの常識や大統領としての品性といった人々の想定の斜め上をいく存在が突如として表れて、よき米国が壊されてしまったという批判である。 しかし、米国の破壊は果たしてトランプのせいだろうか。その根源は初の黒人大統領となったオバマの登場にあるのではないか。 救世主のごとく連邦政治の舞台に現れたオバマはアフリカ系アメリカ人の政治家として完璧に見えた。ハーバードロースクール在学中に権威ある『ハーバード・ロー・レビュー』の編集長を務め、弁護士資格を取るも、貧困層救済活動に身を投じ、イリノイ州議会議員を経て、04年11月の選挙で当時現職としては唯一のアフリカ系連邦上院議員となる。あのさわやかな弁舌と、親しみやすい人柄、そして素敵な家族。 04年の大統領選の民主党大会で、2日目の基調演説に立った若き上院議員の「黒いアメリカも白いアメリカもラテン系のアメリカもアジア系のアメリカもなくユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカがあるだけだ」という演説を聞いた多くの人が、黒人の大統領が登場するとしたら彼ほど理想的な候補はいないだろうと感じた。彗星のように現れたオバマは08年の大統領選挙で民主党候補となり当選する。 ホワイトハウスの主となったオバマは、その任期中に様々な境界をなくしていった。一部の州で進みつつあった同性婚が最高裁判決で全米のお墨付きを得たのもオバマ政権下であった。同性婚を認めるこの最高裁判決が出た15年6月26日夜、ホワイトハウスはレインボーカラーにライトアップされた。 このような政権の動きを好ましく思う人たちは、米国社会は大きく前進したと思った。だが、そのような急激な動きに、戸惑ったり不快に思ったりした人々が全米に沢山いたのである。