植物由来の新素材「脱炭素の切り札に」 利用拡大へ高まる期待 静岡県富士工業技術支援センター
植物由来の新素材セルロースナノファイバー(CNF)の利用拡大の機運が高まっている。静岡県富士工業技術支援センターなどは短時間で量産できる装置を開発し、この装置を使った民間企業のCNF活用の動きが加速しつつある。同センターの山下晶平CNF科長は「世界的な課題のカーボンニュートラルに貢献する素材。脱炭素の切り札として自動車産業などに広がれば」と期待を込める。 機械製造業の相川鉄工(静岡市葵区)と開発した装置は、繊維をほぐす製紙用機械の刃などを改良した。化学的な下処理が要らず、1日120キロのCNFを製造できる。下処理をした上で数十グラムしか作れない従来の装置に比べ「圧倒的な能力」(山下科長)を有し、製造コストの圧縮も期待できる。2023年4月の発売以降、製紙業界など5社から注文が入った。CNFを素材として販売するとみられる。 15年以上前に登場したCNFは原料を入手しやすく環境に優しい「夢の新素材」として注目された。機能性も高く、化粧品や食品、文房具など幅広い分野で実用化されている。ただ、用量はそれぞれわずか。「特注品のような存在。思ったほど広がらない」(同センター)状況が続く。製造コストに加え、水に入れて運ばなければならないための運搬コストが障壁とされる。 普及を目指す県は19~21年度、県内で盛んな自動車産業に着目したプロジェクトを展開した。相川鉄工と手がけた装置のほか、自動車素材に使われるプラスチックの1・5倍の強度を持つ複合材を静岡大と共同で生み出した。車体の軽量化ニーズに合致するとみて、自動車部品メーカーへの売り込みを図り、関心を寄せる会社もあるという。 「以前は採算が合わないと門前払いだった大手企業が1~2年前から使い始めた。風向きが変わっている」と山下科長。今後、特徴の一つであるリサイクル性を数値的に示して環境面での優位性をアピールする考え。センター所有の製造装置を貸したり、CNFのサンプルを配布したりして、企業の活用の動きを後押しする。 ■セルロースナノファイバー 植物の繊維を化学的・機械的処理でナノメートル(1ミリの100万分の1)サイズまで解きほぐした素材。軽くて強く、保湿性に優れ、熱による膨張が少ないなどの特徴があり、各分野で用途開発が進んでいる。県は2017年4月、富士工業技術支援センターに研究や製品開発支援を担う部門を設置した。富士市の製紙会社をはじめ民間企業も研究に取り組んでいる。
静岡新聞社