NTTグループが自動運転事業の本格展開に向けて始動、自動運転バスで地域の足を守る、名古屋で実証実験すでに開始
こうした遠隔監視の実現において、NTTが競争力の源泉として位置づけるのが、ローカル5Gの戦略的活用だ。 「レベル4では遠隔監視の重要性が増し、それに伴って通信の安定性が死活的に重要になります」とNTT東日本の玉木泰人氏は説明する。特に駅前など人が多く集まる場所では、一般の携帯電話回線が輻輳して映像が途切れるリスクがある。そこで、キャリア通信とローカル5Gを組み合わせることで、安定した遠隔監視を実現する考えだ。
具体的には、直線道路など遠隔介入の必要性が低い区間は一般の通信回線を使用し、監視が重要となる区間ではローカル5Gスポットを設置する。 NTT中央研修センタでの実証では、5つの基地局を介して切れ目のない通信環境を実現。1台の車両から6台のカメラ映像(1カメラあたり500kbps)を、5つの基地局を介して切れ目なく伝送することに成功している。 ■社会実装への壁 自動運転事業の収益構造を圧迫する要因は大きく3つある。まず車両本体のコスト。自動運転に必要なLiDAR(ライダー)やカメラなどのセンサー類に加え、処理用コンピューターなども必要となる。次に地図作成コスト。さらに遠隔監視の人件費だ。
特に市場規模の制約が開発コストの回収を難しくしている。特にバスの場合、市場全体でも5万台程度と、自家用車と比べて圧倒的に台数が少ない。このため、量産効果による原価低減が期待しにくい。 「交通事業の収益だけでは成り立ちません」。玉木氏はこう指摘する。実際、国土交通省の報告によると既存の乗り合いバス事業者の94%が赤字という現状がある。高額な自動運転システムの導入は容易ではない。費用負担の在り方を根本から見直す議論を行う必要があるだろう。
より本質的な課題は、地域の公共交通の持続可能性をいかに確保するかだ。「単純な人件費との比較ではなく、そもそも二種免許を持つドライバーの確保が難しくなってきている現状があります」と玉木氏は指摘する。導入コストの高さは課題だが、運転手不足が深刻化する中で、自動運転は避けては通れない選択肢となりつつある。地域の実情に応じた費用負担の仕組みづくりが、今後の普及の鍵を握ることになりそうだ。 NTTは自動運転の実用化という個別の課題に取り組みながら、より大きな視点でも動き始めている。トヨタ自動車との5000億円規模のモビリティAI基盤構想は、その象徴だ。
「日本の自動運転市場はまだ黎明期。この市場を作っていくのは、我々だけの仕事ではありません。みんなでやっていく話なんだろうと思います」。清水氏はそう語る。自動運転の社会実装という大きな課題に、NTTは業界全体との協調という選択で挑もうとしている。
石井 徹 :モバイル・ITライター