大谷翔平の”キン肉マン化”は本当に間違っているのか?
さらに桑原氏は、「大谷選手が、メジャーの最先端の発想、理論、環境の中でトレーニングをやっている以上、相当な裏付けがあると考えていいでしょう。たまたま腕をまくって上半身が強調されただけだと推測します。後述しますが、張本さんの時代とは違い、今は、トレーニング環境もスポーツ・ニュートリションと呼ばれる栄養摂取の部分も進化しています。休養やシーズン中にどれだけの負荷を加えられるか、野球の技術練習との連動も含めて、トレーニングのすべてをトータルでコーディネイトする考え方が進んでいます。張本さんに喝と怒られるかもしれませんが、20年、30年前と、比較すること自体がナンセンスなのかもしれません」と続けた。 「膝に負担がかかる」「ケガをする」という意見にも違和感を覚えたという。 「ウエートトレをして体が大きくなれば膝を痛めるという考え方にも誤解があります。上半身に筋肉をつけたことで膝を痛めるわけではありません。体重が極端に増えれば話は別ですが、レッグエクステンションという膝の周りを鍛えるトレーニングメニューもあるくらいです。海外の文献では、ウエートトレの目的に”プリベンション・インジュリー(ケガの予防)”とあるように、ウエートトレによる筋肉肥大は出力のアップだけでなく、筋肉の制御、ケガの予防という効果があるのです。制御とは動きを止める筋肉のパワー。私は専門家ではないので詳しくはわかりませんが、打撃における壁や、投手がステップ後に反動の力を使うような場合、守備における踏ん張りなどで使う筋肉です。筋肉肥大に取り組んだ選手がケガをすると、そのせいになり、逆に、それをしていない選手がケガをしても筋トレしていないせいだとは言われません。まだまだ野球界においては固定観念が拭いされていないのかなとも感じます」 また桑原氏は張本氏が指摘した「走り込み必要論」についても、こんな問題提起をした。 「走り込むことで心肺機能の向上や、遅筋と呼ばれる筋肉は鍛えられますが、過度な走り込みにはマイナス面もあります。活性化酸素がたまり、抗酸化作用が落ち、疲労が蓄積してパフォーマンス、集中力が下がるという現象が生まれるのです。また速筋の肥大化にも逆効果が出ます。それらを防ぐためには、活性化酸素を取り除くため抗酸化力を上げるアプローチが必要になってきます。休息と栄養。つまり補助する意味でサプリメントの摂取もいるでしょう。ウエートトレの倍を走るのではなく、走りこむことや、長時間の野球練習の負荷を与えると同時に抗酸化力を落とさないことが必要で、体内のグリコーゲンをどうカバーしていくか、など、現代のトレーニングの概念は、それらを含めて多岐にわたり広がっているのです」