派遣先での労災増加、経験浅く短期間で職場変わり高リスク…事故の遺族「安全管理に疑問」
派遣労働者が仕事中に死傷するケースが増えている。経験が浅く短期間で職場が変わる分、労災が起こりやすいとされ、派遣先で死傷した人は昨年初めて5000人を超えた。専門家は安全対策の強化が必要だと指摘している。(竹内駿平、中村俊平) 【写真】亡くなった蒔田雅翔さん
4トンのタンク
「経験の浅い人に危険な業務を任せていたのではないか」。派遣先での事故で長男の蒔田(まきた)雅翔(まさと)さん(当時25歳)を亡くした母の麻衣子さん(49)はそう話す。
遺族の話などによると、事故は今年2月29日、火力発電設備の製造・販売などを手がける「東芝エネルギーシステムズ」浜川崎工場(川崎市)で起きた。
蒔田さんが同社社員と2人1組で、設備に利用するタンク(幅約1メートル、高さ約3メートル、重さ約4トン)を台車に載せて移動させていたところ、タンクが台車ごと倒れ、挟まれたという。
病院に救急搬送され、治療を受けたが、意識を取り戻すことなく、約2週間後の3月13日に亡くなった。死因は多発骨盤骨折による多臓器不全だった。
小学2年から野球一筋だった蒔田さん。専門学校を出た後も練習に励み、プロ野球独立リーグのトライアウトを受けたこともあった。
交際していた女性との結婚を見据え、東京都内の大手派遣会社に採用されたのは昨年4月。神奈川県内の自動車工場で勤務した後、同7月から浜川崎工場で働き始めた。事故が起きたのはその7か月後だった。
麻衣子さんが東芝側から受けた説明では、事故当時、蒔田さんと一緒に作業していた社員は、蒔田さんより数か月遅れてタンクの移動作業を担うようになり、この作業については経験が浅かったとみられる。この社員は事故前日のタンクの様子について「安定が悪そうな気がしていた」と話したという。
労働基準監督署は、蒔田さんの死亡について労災と認定した。麻衣子さんは「安全管理が徹底されていたのか、疑問ばかりが残っている。同じ事故を二度と起こさないでほしい」と訴える。