パー券問題→安倍派外しで「政治大荒れ」の日本だが…株価への影響は【経済の専門家が解説】
一気に減税路線…岸田首相の立ち位置は“微妙”
岸田首相の立ち位置は微妙である。「増税眼鏡」と揶揄された反発からか、一気に減税路線を打ち出した。「成長の成果である税収増を国民に適切に還元すべきだ、1人あたり所得税3万円と住民税1万円のあわせて4万円を差し引く定額減税を行う。住民税の非課税世帯には7万円を給付する」との方針を決定した。 以下のような批判はある (1)6月では遅い、その時にはすでにインフレは低下している (2)恒久減税ではないので次年度には増税になる (3)大幅税収増期待できるので、恒久減税に踏み込むべき が、やらないよりはマシである。 2021年以降名目経済成長率が2%程度であったときに相当の税収増が続いてきた。第一生命経済研究所の永濱利廣氏によると税収の予算比上ぶれは、2021年度9.6兆円(名目GDP2.1%増)、2022年度5.9兆ドル(名目GDP2.0%増)であった(図表1)。 2023年度当初予算による税収は2022年度実績71兆円に対して、69兆円と減少する想定である。しかし23年度の名目経済成長率は5%と30年ぶりの高成長が確実視されており、税収は予算比で10兆円規模の上振れもあり得る情勢である。 それを原資とすれば食料品消費税ゼロなどの大規模な需要刺激策も可能な事情にある。
「巨額の財政赤字」と両建てになっている「潤沢な資産」
当社はかねてから、巨額の財政赤字について財務省や多くのメディア、エコノミストが問題だと指摘している事実こそが針小棒大である、と主張してきた。[図表2]の日本政府の統合バランスシートをご覧いただきたい。 日本の政府の借金は郵政を除いて1,514兆円、GDP比258%と世界最大である、と借金の絶対額だけを見て問題視されている。 しかしこの借金のかなりの部分は、反対側に資産を持っている。たとえば日本政府は政策運営に必要ない米国国債を120兆円以上持っているが、これは借金と両建てになっている。 年金も国民からの預かり金120兆円に対してGPIFの運用益を含めると200兆円規模の資産がある。さらに日本の高速道路は有料で安定的に収入が得られる資産であるが、その建設のための借金なども債務に入っている。 政府保有の潤沢な資産を差し引いた純借金は571兆円でGDP比100%弱、世界的に見てもそれほど高い水準とはいえない。また日本財政の国債依存度が31.1%で主要国中最悪という財務省の言い分も誇張である([図表3、4]参照)。 借金(=国債発行額)35.6兆円のうち16.7兆円は借金返済分(国債償還分)それを除く18.9兆円が真の借金で新の国債依存度は19.4%、それの対GDP比は3.4%と世界平均並みである。 そもそも日本は家計と企業部門で膨大な貯蓄余剰があるので、国が借金をして需要を作り、かろうじて循環が保たれている。財政の寄与がなければ需要不足で、もっとひどいデフレになっていたであろう。 世界に広がっている世界最悪の日本国政府債務という評価は、「従軍慰安婦や徴用工問題」と同様、日本を不当に貶めるものである。 この財務省の緊縮財政バイアスに安倍氏は強い警戒感を持っていた(田村秀男、石橋文登「安倍晋三VS財務省」(育鵬社)2023年に詳しい)。その安倍さんの意志を継承している人々の影響力を絶ちたいと財務省は考えているだろう。 なお世界では最近財政出動に肯定的意見が強まっている。米国は、ジャネット・イエレン財務長官が主唱する高圧経済論(MSSE現代サプライサイドエコノミクス)が実践され、主要国に比し躊躇ない大規模の財政支出が、米国経済の好調さを支えている。 他方ドイツは連邦憲法裁判所が「財政赤字をGDP比0.35%以下」という憲法規定をタテに、財政支出を制限した。日本もドイツのようにならないような注意が必要である。 政府の財政支出余力をより正しく表す政府利払い費の対GDP比(図表6)は、日本は世界最低水準にあり、むしろさらなる財政支出or減税が適切な情勢といえる。