社長になった僕の「ドンキ人生」は、戸惑いだらけで始まった
35期連続増収・増益という猛烈な勢いで成長を続ける総合ディスカウント店「ドン・キホーテ」。運営会社のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の売上高は2024年に初めて2兆円を突破し、今や日本の小売業界では第4位の巨大企業だ。その根幹を支える同社の理念が「顧客最優先主義」と「権限委譲」。これらをグループ全体に根付かせ高収益につなげた経営とマーケティング、さらに成長の原動力とも言える強力な現場を創造する人材育成術はすべてが型破りで"非常識"。そんなドンキの素顔について、日経クロストレンド新刊『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』から一部抜粋してお届けする。 【関連画像】2024年8月29日発売の『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』(日経BP)。著者はPPIHの吉田社長、ドンキ躍進の原動力となった「情熱価格」のリニューアルを手掛けたPPIH上席執行役員の森谷健史氏、ブランディングを全面サポートした博報堂クリエイティブディレクターの宮永充晃氏。“内側の人間”だからこそ書けた「ドンキ大躍進の真実」をこの1冊に凝縮 ●米国社長だけど、すぐ決めちゃっていいの? この会社ちょっと変わってるかも……。 こんにちは。吉田直樹と申します。2019年より、ドン・キホーテおよびその親会社株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の社長をしております。お見知りおきお願いいたします。 僕がドン・キホーテ(ドンキ)に入社したときに感じた第一印象が、“変わってる”でした。2007年、17年前のことです。そして、その第一印象は、結構当たっておりまして(笑)、社長になった今でも、よく感じています。 今回書かせていただいた『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』は、この「変わってる」と、本書のタイトルである「好き勝手」をキーワードに、ドン・キホーテのPB(プライベートブランド)のリニューアルプロジェクトと、こういうオモシロイ商品とオモシロイお店を出し続けているドンキという組織についての物語です。最後までよろしくお願いいたします。 さてさて。僕のドンキ人生で初めて与えられた仕事は、海外事業本部長兼DonQuijote(USA)社長というハワイ法人の社長でした。そこで、僕は「この会社変わってる……」といきなり大いに戸惑いました。それは、「僕が言ったこと」とか「僕が決めたこと」が、何でもすぐ会社の方針として決まってしまったことです。 仮にも社長なんだから社長が言ったら、それが会社の方針でしょ?と思われる方は、多分、まだカイシャに入る前の年代の方かもしれません。カイシャは、特にコガイシャでは、通常そんなふうになってないんですよ(泣)。 社会人になると、だいたい、はじめに慣れなければいけないのは、決裁とか稟議(りんぎ)というものです。会議で盛り上がって決まったこととかが、会社の意思決定になるために必要なプロセスが、稟議であったり決裁だったりするわけです。社内で稟議書がぐるぐるぐるぐる回っていって、やっと決裁(=カイシャの意思決定)になる。で、決裁が通ったときには、時間がかかっていて、これ何の話だったっけ?だったりだとか、いろいろな部署の意見で元々の話から追加とか削除が入って、修正を重ねた結果、そもそも決めていたことと違うことになっていたりとか……。 そんなこんなを受け止めて、それでも前に進む……というのが、ジャパニーズ・ビジネスマンの道なんだと教えられていたはずなんですが、当社は全然違っていたんですね。会議で盛り上がったら、その通り、すぐに意思決定されるんですね。 最初は、僕が社長という立場だから僕の判断でその場ですぐ決められるのかな?と思いながらも、一定の規模の企業で、何の手続きも経ず、社長に就任したばっかりの人間の判断で会社の方針が決まっちゃっていいのか?という戸惑いのほうが大きかったです。 例えば、入社直後に行った広告のミーティングの時です。そこで、ハワイの幹部たちと侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論をして、ある結論を出したんです。長年にわたって続いていた広告の方針を根本から変えるような話でした。会議の後、こういうことって、会社としては、どうすれば意思決定になるのかと聞いたところ、「会議で決まったことが会社としての決定です」と言われました。「本社に言わなくてもいいの?っていうか本社の了解がそもそもいるんじゃないの?」とツッこんでも、ドンキから出向している社員たちには「何のためですか?[シャチョー大丈夫?]」と諭される始末。コガイシャの悲哀どころか、まさに好き勝手(笑)。 入社後、だんだん当社のことがわかってきました。この好き勝手は、特に、商品軸について顕著です。当社は1兆6000億円くらいの仕入れをしていますが、基本的に稟議もありません。そもそも担当者自身に委譲された権限というのがびっくりするほど大きくて、担当者もそれをフル活用している(フル活用しなければならない、のほうが正確)ので、担当者の判断であっという間に仕入れ行為がなされるんですね。 僕も入社したばかりとはいえ、コガイシャの社長です。大きな権限(=責任)が与えられて当たり前であり、本社にお伺い……とかしてないで、早く決めちゃいなよ![今度のシャチョウ遅いね]と社員のみんなが思っていたということは、後々わかることになります。 ただ、入社したての僕にとっては、あまりに新鮮というか、どちらかといえば「え、大丈夫?」といった気持ちで、こんな素人のオレが決めちゃっていいのかと、ちょっと心配になってしまったというのが本当のところです。