日本の「観光教育」はどうなっているのかを取材した、その誕生の歴史から観光学の最新事情まで
観光教育が学校の特色の一つに
高校における観光教育が新たな局面を迎えたのは1990年代半ばのこと。学習指導要領改訂により、1994年から普通科、専門学科(商業科、農業科、工業科など)に続く第3の選択肢となる「総合学科」が導入された。 総合学科の話をする前に、学習指導要領について触れておこう。学習指導要領とは「全国どこの学校でも一定の水準が保てるよう、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準」 のこと。この「学校」とは小学校・中学校・高校を指す。学習指導要領はおよそ10年に1度のペースで改訂されるが、小中高が同時に新しい学習指導要領に切り替えるのではなく、それぞれ実施時期は異なる。 平成最初の学習指導要領改訂(1994年実施)で導入された高校の総合学科とは、普通科と専門学科の両方の選択科目から自分で選んで学べるというもの。文部科学省が1993年の通知で「高等学校教育の一層の個性化・多様化を推進するため」として積極的な取り組みを求めていることからも、学校の特色を出せる学科として誕生したことがうかがえる。文部科学省 初等中等教育局の担当者によると、この総合学科でも観光について学べるという。 「総合学科は生徒一人ひとりの興味関心に応じて科目が選択できる学科です。商業科だけでなく、総合学科に観光関連のコースを設置している高校もあります。農業、水産業、観光業、六次産業など、地域の実態とニーズはそれぞれ異なります。学校の設置者である都道府県や市町村、学校法人は、地域や生徒のニーズに応じて学校やコースを設置していますが、学習指導要領がありますので、観光関連のコースが設定されている商業科や総合学科でも観光についてのみ学ぶわけではありません。商業科であればビジネス法規や経営マネジメントといった科目も学ぶことになります」
地域や生徒のニーズが反映される
学習指導要領の枠組みの中で観光について学ぶ形ではあるが、「何を学ぶか」については学校の特色を出すこともできるという。平成の2度目の学習指導要領改訂(2003年実施)で、「学校設定科目」が設置されたためだ。 学校設定科目は普通科や専門学科の科目とは別に、学校が独自に設定できる科目のこと。科目の名前から内容、目標、単位数まで学校が設定することが可能だ。学校設定科目は特色ある教育課程の編成に資するものとされており、その地域の実態やニーズに応じた学びが可能になっている。さらに、平成で3度目の学習指導要領改訂(2013年実施、2010年一部先行実施)でも、授業のテーマとして観光を取り上げやすくなったという。 商業科の「課題研究」という科目が1.調査実験研究、2.作品制作、3.産業現場等における実習、4.職業資格の取得、という四つで構成されることになり、この調査実験研究などのテーマとして何を取り上げるかは、学校の裁量に任されている。そのため、このテーマとして観光を選び、学ぶことが可能である。 このように、1980年代に観光科やリゾートコースが相次いで設置された流れとは別に、学習指導要領が改訂されるたびに、高校では商業化を中心に観光を学ぶ機会が少しずつ増えていったことがわかるだろう。