元世界ランキング4位の錦織圭 復帰を支えた打球面の広い新ラケット、「遠い球の守備が楽」と守りに威力
【パリ28日=吉松忠弘】1回戦で4時間22分の激闘を制し、2021年全米以来の4大大会勝利をあげた元世界ランキング4位の錦織圭(34)=ユニクロ=。その復活劇には新たな武器の存在があった。錦織自身が、その秘密を明かした。2回戦(29日)では同15位のシェルトン(21)=米国=と対戦する。 1回戦。身長203センチの相手から、最速時速216キロのサーブが放たれる。錦織は、178センチの身長を思い切り伸ばし、何とか食らいついた。その手の先には、面が広がり、以前より楽に球を飛ばせる新たなラケットが握られていた。 昨年6月、約1年8か月ぶりに実戦復帰した錦織が手にしていたのが、錦織専用に開発された新兵器だった。しかし、2023年はわずか4大会の披露に終わり、4大大会では今大会の全仏が初めての使用となった。 正体は、2007年プロ転向以前から使い続けた95平方インチの打球面が98平方インチに初めて広がったラケットだ。わずか3平方インチの差に、錦織は「打ったら、なんで早くやらなかったと思うぐらい良かった」と、手にした瞬間に惚れ込んだ。 打球面が広がると少ない力で球を飛ばせる。「特に守備。走らされたときに、軽く飛んでくれる。遠い球で力が入らないのに飛んでくれるのは、すごい楽」と、これまで以上に守りに重点を置いている。 重量は打球面に張るストリングス(糸)がなくて340グラム前後だ。打球面は幅27センチ、縦35センチ。縦糸の数が以前の16本から18本に増え、横糸の数は20本から19本に減った。網目が粗くなり、「スピン(回転)もかけやすい」と、反発とスピン量を増やすことが目的だ。 錦織のストリングスをデビュー当時から担当する細谷理ストリンガーは、ストリングス自体の変化にも注目する。動物の腸などから作るナチュラル・ガットと呼ばれる縦糸は、以前より直径で0・05ミリ細くなった。横糸は反発が高い糸に変更された。細谷氏によると「どれも反発が強くなり、スピンがかけやすい」という。 過去、ストリングスの張りのテンション(強度)や、ラケットの柔らかさにはこだわった。しかし、ストリングス面に描かれるスポンサーのアルファベットの濃さにも注文を入れる繊細さを持つ。大きく飛びに影響を与えるサイズだけは頑固に変化を拒んだ。 しかし、年齢を重ね、離脱中に、パワーヒッターの若手が台頭。その対抗策として勧められたという。「ロジャー(フェデラー)とかも、大きくしたというし。試してみてもいいかもと、軽い気持ちで打ってみたら、本当によかった」。自らの信念や環境を変えてでも、まだ好きなテニスを続ける。新兵器は、錦織の闘う意志の証だった。
報知新聞社