【デデデデ】「観客のリアル」と「アニメの出来事」のリンクとこだわり!
浅野いにおの人気コミック『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(以下:デデデデ)』が2部作としてアニメ映画化。現在『前章』が大好評公開中で、『後章』は2024年5月24日に公開される。 アニメージュプラスでは本作のアニメーションディレクター・黒川智之さんにインタビュー(全2回)。前編となる今回は、原作の印象から作品制作にあたってのこだわりについて伺った。 【関連画像】『デデデデ』の前後編の名シーンやKVを見る!(21枚) ――本作参加のきっかけは、どのようなものでしたか。 黒川 以前から僕とプロダクション・プラスエイチの代表・本多史典さん、ギャガ株式会社のプロデューサー・新井修平さんの3人で「一緒に作品を作ろう」という話をしていたんですよ。その中で『デデデデ』が候補に挙がりました。 僕はその時に原作を初めて読んだのですが、現実世界のネガティブな部分や人間の醜い本性も軽やかに描く浅野先生作品の魅力が、本作でも健在だと感じました。また同時に、連載開始当時である2014年・東日本大震災直後の世相をすごく反映した作品であるという印象も受けましたね。映画化するのにすごく良い題材だと思いました。 ――企画がスタートしたのはいつ頃だったのでしょうか? 黒川 4~5年前、まだ原作マンガが連載中のことでした。そのため物語が締めくくられてから制作に入ることになったのですが、そうしたらコロナウィルスの感染拡大が起こりました。 ――コロナ禍を経たことで、作品が持つ意味合いも変わってきたのでは? 黒川 そうですね。連載当時は東日本大震災に直面した日本人をターゲットにした作品だったように思います。しかし、全人類がコロナ禍を経験したことで。世界中が得体の知れない “何か” に対する不安や恐怖を描いた『デデデデ』と似た状況に直面することになったことで、図らずも本作がより広い人に共感されるようになったのではないでしょうか。 ――今作では「アニメーションディレクター」としてクレジットされていますが、どのような形で作品に関わったのでしょうか。 黒川 制作現場での指揮を担当する一方で、原作者である浅野先生から綿密なアドバイスをいただきながら制作を進めています。一般的な監督としての動き方とは違うので、今作ではアニメーションディレクターという肩書きにしてもらいました。 ――浅野先生も前向きに本作の現場に参加しているのですね。 黒川 浅野先生にとっても本作は初のアニメ化作品とあって、かなり積極的に参加してくれています。キャラクターや小物のデザインは勿論のこと、色や背景に至るまで細かく確認いただいています。 ――美術のチェックもされているんですか! 黒川 そもそも原作の背景の描き込みが綿密かつリアルじゃないですか。それをいかに映像表現に落とし込むかには試行錯誤を繰り返しています。浅野先生も美術の仕上がりを気にしていまして、浅野先生や美術監督の西村(美香)さんと共にディスカッションをしながら作っています。 ――原作の背景をいかに再現するかに注力したわけですね。 黒川 そうですね。ただ、白黒で描かれた原作をカラーのアニメにするにあたって、ある程度の変換は必要となりました。その時に重要となったのは「空気遠近」という考え方です。私たちが住む世界には空気があるため、近くのものはハッキリと、そして遠くのものは霞んで見えます。アニメの背景にこの考え方を適用させた方がリアルな描写になるため、距離とぼやけ具合の調整にあたって何通りかのサンプルを作り、浅野先生と確認しながら落としどころを探っていきました。 ――リアルさへのこだわりがあったと感じました。 黒川 そうですね。原作の魅力のひとつに表現のリアルさがあるので、アニメでもそこは大切にしていこうと考えていました。あと “アニメを観た人の実体験” と “作中の出来事” をリンクさせたいと考えていましたので、マンガらしいコメディチックな描写もありつつ、そちらに振り切らないバランス感を維持することには気を遣いました。 ――「世界設定」として鈴木貴昭さんがクレジットされていましたが、それもリアリティを追求してのことなのでしょうか。 黒川 そうですね。鈴木さんからは、自衛隊関連描写をより具体化するためのアドバイスをいただきました。原作に登場する自衛隊は、浅野先生もその内情を完全に理解して描写しているわけではないので、鈴木さんに現実の自衛隊の動きをヒアリングしてどう描いていくかを決めていきました。 ――門出や凰蘭たちの描写もこだわったかと思いますが、キャラクターデザイン・総作画監督を手がけた伊東伸高さんのお仕事にどんな印象を抱かれましたか。 黒川 浅野先生が描くキャラクターはマンガチックでありながらも骨格を感じられる、ある種のリアルさを持っているんですよ。そんな彼女たちを動かすにはしっかりとしたキャラクターデザインが必要だと感じていました。 そんな中、本多史典さんが連れてきてくださったのが伊東伸高さんでした。参加いただけることが決まった時点で「僕からもう言うことはない!」とすら思いましたね。伸高さんのキャラクターデザインのおかげで、門出や凰蘭たちに嘘のない動きが与えられたと思っています。
一野 大悟