お伽話と思えない世界観―最古の浦島伝説、約1300年前に創祀された浦嶋神社
初冬の丹後半島は少し小雨混じりの日が続いていた。高速道を降り国道178号線を走る。しばらくすると海を挟み並行して日本三景の一つ、天橋立が見えてきた。 約3.6km続く砂州には数千本の松が生い茂る。右手にその松林を眺めしばらく走ると、湾に突き出た半島沿いに木造の建物がぎっしり建ち並ぶ風景が見えてくる。映画やドラマのロケ地としても有名になった京都府伊根町の舟屋群。水際ぎりぎりに建つ家屋はまるで海上に浮かんでいるような不思議な風景だ。
舟屋で有名な伊根の町だが、丹後地方は古代から大陸との交流があり古墳も多く、古くから栄えた地域であったという。それ故に数々の伝説が残っている。 「浦島太郎」と言えば日本の昔話としてすぐにその名が出てくるほど有名な話。その伝説は全国的にも広い範囲に残っているが、ここ浦嶋神社に伝わる浦嶋物語は日本最古で、8世紀にできた丹後風土記や日本書紀、万葉集などにも記されている。この神社は天長2(825)年に創祀され、浦嶋子(うらのしまこ、浦島太郎)を筒川大明神として祀っている。
浦嶋神社に伝わる話では、雄略天皇22(478)年、浦嶋子が舟で釣りに出ていて五色の亀を釣り上げる。亀は亀姫という美しい乙女に変身し、常世(とこよ)の国に誘われる。 嶋子は乙姫と結婚し楽しい日々を過ごしたが、三年経ったある日、望郷の念にかられ一人で帰郷することになる。その時に乙姫から、再会を期するなら絶対に開けてはいけないと告げられ玉櫛笥(たまくしげ)を渡される。ところが里に戻るとすでに三百年が過ぎていた。呆然とした嶋子は約束も忘れて玉櫛笥の蓋を開けてしまう。すると中から煙が出てきて瞬く間に白髪のおじいさんとなり、亡くなったという。 境内の宝物資料館には浦島太郎の物語を細かく描写した浦嶋絵巻、乙姫小袖、玉手箱が展示されている。どれも室町、桃山時代から伝わる貴重な代物である。神社に伝わる文献と宮司さんの独特の語り口で伝説を聞いていると、単にお伽話とは思えないそんな世界に引き込まれる。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・倉谷清文さんの「フォト・ジャーナル<“舟屋と伝説の町” 京都府伊根町へ>倉谷清文第10回」の一部を抜粋しました。 (2017年11、12月撮影・文:倉谷清文)