音楽とギョーザ作り“二刀流”の「ギョウザミュージシャン」 ギョーザで胃袋を、歌で心をつかむ
長野県安曇野市の嶋田湧(わく)さん(32)は「ギョウザミュージシャン」を名乗り、手作りのギョーザを販売しながら、県内各地で音楽ライブを開いている。幼い頃から大好きな音楽と、社会人になって始めたギョーザ作りの「二刀流」。「ギョーザで胃袋をつかみ、歌で心をつかむ」をモットーに掲げ、活動の幅を広げている。 【写真】ギョーザを作る嶋田さん 神奈川県中井町出身。音楽好きの両親の影響でギターと歌に夢中になり、大学ではバンド活動に打ち込んだ。だが、進路を考えるようになってもプロを目指すための一歩を踏み出せず、飲食チェーンの運営会社に就職した。 料理長や店長を任され、仕事にやりがいを感じる一方、心のどこかで「本当にこれでいいのか」との思いも募った。社内報の編集業務で社長を取材した際に、飲食業にかける熱量に圧倒され、「自分は人生をかけて音楽に取り組みたい」と退職を決意した。 その後はミュージシャンを目指す傍ら、生計を立てるためにも知人のギョーザ店の立ち上げに協力。商品開発にも携わり、皮から手作りしたギョーザのおいしさを知った。 2018年4月、ギターと野宿用の睡眠グッズだけを携え、自転車で日本一周の旅に出た。本気で音楽と向き合うためにまとまったお金を用意せず、全国各地を巡って路上ライブで日銭を稼ぐ生活を1年間続けた。400カ所以上のさまざまな場所でライブを重ねる中、人に笑顔と勇気を与える「音楽が持つ力」を確信した。 日本一周を終え、次の旅の準備のために広島県を拠点としていた19年9月に「手づくり餃子NERU(ネル)」を開業。店舗を構えずに、手作りのギョーザをイベント会場やインターネットで販売する現在のスタイルを確立した。 安曇野市穂高有明のゲストハウス兼シェアハウス「イラムカラプテ」でライブをした際、自然の豊かさや野菜のおいしさ、人の温かさに触れ、20年9月に同市へ移住した。それからはイラムカラプテを厨房(ちゅうぼう)として借り、化学調味料を使わないこだわりのギョーザを週に1200~1500個ほど皮から作っている。 音楽活動では、県内の飲食店や宿泊施設でライブを重ねる。ギョーザへの愛を歌った「ギョウザロックンロール」や、自身の人生観を表現した「ポートフォリオ」などのオリジナル曲を披露する。歌に込めるのは「ありのまま」や「等身大」の思いだ。「歌い手の魂が乗らない歌は人の心に響かない」と言い切る。 ライブ会場でもギョーザを販売し、来場者の心と腹を満たす。音楽とギョーザの両方にほれ込んだ「自分だからたどり着いた生き方」と捉える。目標は音楽の腕を磨きながら、安曇野の食材を使った新たなギョーザを開発するなどしてさらに地域に根付くこと。「自分もみんなも『わくわく』させ続けたい」。自身の名前にちなみ、そう願う。(難波淳)