祝還暦・阿部寛はなぜこんなにも愛されるのか モンゴル語に“音楽隊”でドラム演奏も…チャレンジし続ける個性派俳優の軌跡
6月22日に60歳の誕生日を迎えた阿部寛。近年もドラマ「VIVANT」(2023年、TBS系)でモンゴル語を操り、6月28日(金)からLeminoでも配信がスタートする主演映画「異動辞令は音楽隊!」(2022年)では吹替なしで華麗なドラム演奏を披露…と、チャレンジングな役柄に挑み、愛されるキャラクターを生み出し続けている。なぜ彼の演じるキャラクターはこんなにも愛されるのか。“還暦”を迎えたこの機会に今一度あらためて彼のキャリアをひもとき、その理由を探ってみたい。 【写真】長身で小顔…!メンノンモデル時代もカリスマ的人気を誇った阿部寛の全身ショット ■「トリック」の“自称天才物理学者”役で注目 大学在学中にモデルデビューし、ファッション誌「MEN‘S NON-NO」の創刊号から3年6カ月にわたって表紙を飾ったことはよく知られている。太い眉と鼻筋の通った精悍な顔立ち、優しげな目元は、人気ぶりも納得のイケメン。大学卒業後、映画「はいからさんが通る」(1987年)で俳優デビューを果たした。 俳優・阿部の名をお茶の間に一躍知らしめた作品といえば、ドラマ「トリック」(2000年ほか、テレビ朝日系)シリーズだろう。演じた自称天才物理学者・上田次郎はビッグマウスで重度のナルシスト、だが実は気が小さく美女に弱いかなりクセの強いキャラクター。仲間由紀恵演じる山田奈緒子との名コンビぶりも注目を集め、阿部は三枚目も演じられる個性派俳優として人気を博した。 ■10年以上を経て復活した桜木建二と桑野信介 その後も、一度見たら忘れられない強烈なキャラクターを生み出してきた。活躍ぶりは周知の通りだが、ドラマ「ドラゴン桜」(2005年ほか、TBS系)シリーズで演じた元暴走族の豪快な弁護士・桜木建二や、「結婚できない男」(2006年ほか、フジテレビ系)シリーズの女性に興味がない偏屈な建築家・桑野信介など、どのキャラクターもひとクセもふたクセもある個性の持ち主。哀愁の中にちゃめっ気もあり、ぼそっとつぶやく皮肉めいた一言がなんともユーモラス。どちらも10年以上を経て続編が作られるほど、視聴者にとっての“忘れられない一作”となった。 彫りの深い顔立ちを生かした役柄も、彼ならでは。映画「テルマエ・ロマエ」(2012年ほか)シリーズで演じたローマ人、ルシウス・モデストゥスはその最たるものだが、2023年のドラマ「VIVANT」では日本人の公安刑事役ながら、「アラブ系かと思っていたが日本人か」と言われるシーンが登場し、SNSを沸かせた。そんな、思わずツッコミを入れずにいられない親しみやすさも彼の魅力。かつて爽やかなルックスで誌面を飾った青年は、時を経て、味のある男前な風貌とチャーミングなキャラクターのギャップで魅了する唯一無二の俳優へと変貌を遂げたのだ。 ■上杉謙信、武田信玄…歴史的カリスマを怪演 若い頃に舞台で培った演技力が、そんな彼の活躍を支えている。1993年以降、毎年のようにつかこうへいさん演出の舞台に立ち、2000年代になると蜷川幸雄さん演出の舞台や彩の国シェイクスピアシリーズにコンスタントに出演して研鑽を積んできた。 個性的なキャラクターが注目を集めがちだが、コメディー要素のない役柄でもその存在感は圧倒的だ。大河ドラマ「天地人」(2009年、NHK総合ほか)で演じた上杉謙信や「どうする家康」(2023年、NHK総合ほか)の武田信玄など、ひとにらみで相手を黙らせ震え上がらせるカリスマが特にハマり役で、「坂の上の雲」(2009-2011年、NHK総合ほか)では厳格な陸軍大将・秋山好古(あきやま・よしふる)を堂々たる佇まいで演じた。 ■吹替なしでドラム演奏 撮影前に3カ月特訓 あらためて振り返ると、硬軟自在でその振り幅に驚かされる。加えてキャリア35年を超える今、あくなきチャレンジ精神でもファンを魅了している。「VIVANT」でモンゴル語のセリフに挑んだことも記憶に新しいが、主演映画「異動辞令は音楽隊!」では、吹替なしで華麗なドラム演奏まで披露しているのだ。 「異動辞令は音楽隊!」で阿部が演じたのは、捜査一課の“鬼刑事”・成瀬。刑事畑一筋30年、コンプライアンスが重視される今の時代にそぐわない違法すれすれの捜査で組織から煙たがられていた成瀬は、とうとう警察音楽隊に異動させられてしまう。担当することになったドラムは触ったこともない。はじめは「なんで俺が…」といら立っていた成瀬だが、隊員たちと触れ合う中で少しずつ心境に変化が現れ始める。 大柄でコワモテの成瀬がムスッとした顔で、体を縮こめるようにしてこわごわドラムをたたき始める姿がなんともかわいらしい。それがキャラクターの成長とともにドラム演奏も上達し、クライマックスの演奏シーンでは別人のように明るい表情で、カッコよく軽快にスティックを操っている。 劇中でのドラム演奏シーンはすべて吹替なしというから驚きだ。阿部自身はドラム未経験で、撮影前に3カ月ほど特訓したという。完成披露試写会で「成瀬にとっても楽器は挑戦だから、自分も一緒に挑戦していけばいいかなと思いました」と、出演を決めた理由を語っていた。ベテランと呼ばれる年齢になっても努力をいとわず新たな挑戦を自ら積極的に選びとっていく阿部のカッコよさにしびれる。 男前なルックスにユーモラスな人物造形、そしてキャリアを重ねても変わらないチャレンジ精神…。阿部と彼の演じるキャラクターは、どの面をとっても愛される理由に満ちている。還暦を迎えても年齢に囚われることなく愛すべきキャラクターを体現し続ける彼は、今後どんなキャラクターで新たな魅力を見せてくれるのだろうか。 ◆文=ザテレビジョンドラマ部