視聴者に見放され「マスコミの代弁者」に…"斎藤元彦知事の復活"が示すモーニングショー・玉川徹氏の限界
■実態は「政治系ユーチューバー」と変わらない そんな玉川の姿勢、あり方は何かに似ていると思わないだろうか。彼の基本的な行動原理は政治や社会問題を取り扱うユーチューバーとそう大きくは変わらないのだ。 玉川の怒りはまずもって「官僚」へと向かったが、それは昨今のユーチューバーのように反マスメディア・反テレビでも反既得権益でも代替可能であり、再生回数との折り合い、社会の空気を読んでポジションを変えること、そして何より――対象は多岐にわたるが――何かに対する「怒りを代弁」しようとする姿勢は現代の発信者たちの動機にも通じるものがある。 賛否を超えて再生ボタンを押させた時点で話題を獲得するのも、チャンネルを合わせてもらうための方法と共通する姿勢だろう。もし、若い時分の玉川が現代を生きているという世界線があれば、相当強烈なインフルエンサーになっていたのではないか。 ■これからはテレビが「怒りの対象」に 彼が培ってきた異端の方法は、多くのメディア人が予期しなかった形でインターネットに流れ込んだ。その結果、起きたのはテレビそのものが怒りと疑念の目を向けられる対象になったことだ。 言い換えればテレビ、マスコミが「嫌われ者」になった。それが玉川的な方法を駆使した動画として広がっていく。権威に立ち向かっているようなポジションを取り、実際に数字がついてくれば玉川のポジションは当面守られる。 しかし、本当に問われなければいけないのはかつてのテレビの技法そのものだ。 一時の怒りをもとに視聴者の感情を刺激し、共感をひきつける「怒りの代弁」から、別の方法への模索が問われる必要があるのではないか。 ワイドショーを牽引した玉川がテレビを代弁する時代は皮肉ではあるが、決して歓迎するものではない、と私は思うのだが……。 ---------- 石戸 諭(いしど・さとる) 記者/ノンフィクションライター 1984年、東京都生まれ。立命館大学卒業後、毎日新聞社に入社。2016年、BuzzFeed Japanに移籍。2018年に独立し、フリーランスのノンフィクションライターとして雑誌・ウェブ媒体に寄稿。2020年、「ニューズウィーク日本版」の特集「百田尚樹現象」にて第26回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した。2021年、「『自粛警察』の正体」(「文藝春秋」)で、第1回PEP ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)『ニュースの未来』(光文社)『視えない線を歩く』(講談社)『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)がある。 ----------
記者/ノンフィクションライター 石戸 諭