『虎に翼』に漂う名作ドラマの予感、寅子のモデル「三淵嘉子」の人生も感動的だった
朝ドラことNHK連続テレビ小説の新作『虎に翼』が面白い。名作になるのではないか。 【写真】『虎に翼』の主人公・猪爪寅子のモデルで、日本初の女性弁護士、日本初の女性判事、日本初の女性家庭裁判所長となった三淵嘉子さん。写真は退官後の1982年6月、東京。目黒区の自宅マンションベランダにて まずテーマが大きいのが良い。ジェンダーフリーと多様性。単なる有名人の一代記や成功譚、苦労譚ではない。 ■ 「都合が良過ぎない」巧みな脚本 ヒロインは猪爪寅子(伊藤沙莉)。「五黄の寅」だった1914(大正3)年に生まれ、女性初の弁護士、女性第2号の裁判官となって、性別による差別の解消など公平な社会の実現を目指す。一方で結婚に幸福があると考える寅子の友人・米谷花江(森田望智)らの生き方も否定しない。 吉田恵里香氏による脚本も巧みで飽きさせない。第1週(2~5日)のヤマ場は第5回だった。結婚を拒み、明律大女子部法科への進学を望む寅子の考えを認めなかった母親・はる(石田ゆり子)が、豹変した。 明律大で講義をした際にたまたま寅子と出会った裁判官・桂場等一郞(松山ケンイチ)が、甘味処「竹もと」で寅子の法曹界志望を頭ごなしに否定したからだ。桂場は寅子が男性と渡り合うのは無理だと断じた。 「君のように甘やかされて育ったお嬢さんは土俵に上がるまでもなく、血を見るまでもなく、傷ついて逃げだすのがオチだ」(桂場) この言葉を聞いたはるは激怒する。 「おだまんなさい! 何を偉そうに! そうやって女の可能性の芽を潰してきたのは、どこの誰? 男たちでしょ!」(はる)
怒りの収まらないはるは寅子と書店に直行し、六法全書を買い与える。寅子の進学がなしくずし的に決まった。 なるべく都合のいい偶然を避けようとしているところも買える。寅子、桂場、はるが思いがけず「竹もと」で鉢合わせになったら出来過ぎだが、第3回で明律大教授の穂高重親(小林薫)は、桂場が代講してくれたお礼にこの店の団子を手渡していた。そのとき、この団子が桂場の好物であることを視聴者にさりげなく伝えていた。こういう脚本は信頼できる。 ■ 寅子のモデルは「女性法曹の草分け」 第1週での寅子の決意とはるの啖呵に快哉を叫んだ女性視聴者は多いのではないか。朝ドラの個人全体視聴率(全世代)は8%前後だが、50歳以上の女性に限った個人視聴率は20%を軽く突破する。一方、50代以上の男性は同13%前後。朝ドラは岩盤支持層である女性を惹き付けないと高視聴率が望めないから、ヒットを予感させる作風だ。 男性の胸も打ちそう。不遇をかこっているヒロインが逆境をはねのけ、目標に立ち向かっていく姿は性別を問わず感動を与えてくれる。国民的朝ドラになった『おしん』(1983年度)が好例である。 モデルも良い。女性弁護士第1号にして女性裁判官第2号の三淵嘉子だ。嘉子は東京女子師範学校附属高等女学校(現・お茶の水女子大付属高)から、明治大専門部女子部法科(3年制)に進み、明治大法学部へ編入した。同大は女性の法学教育機関の草分けだった。 同大を卒業した1938年にほかの女性の同級生2人とともに超難関の高等文官試験司法科(現・司法試験)に合格する。卒業時は総代だった。1940年には弁護士登録する。 1941年には実家の書生だった和田芳夫と結婚したものの、芳夫は1944年に召集され、終戦後の1946年に病死する。この朝ドラでは佐田優三(仲野大賀)である。