“持たざる者”橋本英郎が11人の一員として必要とされ続けた理由 ボランチは「一番楽なポジション」?
便利屋からポリバレントへ
小学生のときは“点取り屋”、ジュニアユースではFW、ユースでは、FWの他にもサイドハーフなど攻撃的な中盤のポジションをやることもありました。 プロ入り後、ボランチのポジションを確立するまでは、「空いているところで出場する」立場だったので、当然さまざまなポジションを経験することになります。これが思いのほかその先のキャリアで役立ちます。 プロでやったことのあるポジションだけでも、サイドバック、サイドハーフ、FW、そして一番多くプレーしたボランチと、GK以外のほとんどのポジションを経験しました。センターバックもごく短い期間やったことがあります。 特定のポジションがなく、便利屋的に使われることに「俺ってただの器用貧乏やん」と悩んだことはありましたが、実はいろいろなポジションや役割を経験できたことが、私のようなタイプの選手にとってとても重要な成長の糧になるということが後にわかります。 それをはっきりと示してくれたのが、メディアなどを通じてオシムさんが有名にしてくれた「ポリバレント」という言葉と考え方です。 それまで日本では複数ポジションをこなせる選手は「便利屋」とか特定の強みのない選手として軽く見られる傾向にあったと思います。「ユーティリティプレイヤー」という言葉はありましたが、それでもやはり便利屋的ニュアンスが強い使われ方だった気がします。 いわゆる「隙間産業」で空いているポジション、足りない場所を埋める形で生き残ってきた私は、こうした自分の立ち位置にちょっとしたコンプレックスを持っていました。しかしオシムさんが発した、元々は化学用語だという「多価(難しいことはわかりませんが、原子が他の原子といくつ結合できるかを見たときに、より多いものという意味らしいです)」という意味の「ポリバレント」という言葉のニュアンスを聞いたときに、自分がプロサッカー選手としてやってこられた理由の裏づけをもらった気がしました。 「ポリバレント」の出現によって一番変わったのは周囲の評価ですが、オシムさんが同時に発した「考えながら走ることの重要性」「サッカーには水を運ぶ人が必要」というメッセージと併せて考えると、まさに 〝持たざる者〞である私が11人の一員として必要とされる理由が「ポリバレント」であることだと感じることができました。